支えるということ
完全に固まってしまった徹くんの顔を見て、ああやっぱりな、という感想が頭を過った。
私だって、徹くんと一緒に高校に通いたかったんだ。でも、それじゃダメだって分かってるから決意したんだ。ここで流されたら意味がない。
「徹くん、あのね…」
「俺と一緒じゃ、イヤだった…?」
「え?」
「俺のこと、嫌いになった…?」
徹くんの声が頼りなくて全然力がなくて、今にも泣きそうな顔をしていて、まだ話すべきじゃなかったんだと思い知らされた。弱々しい徹くんをこんな形で見ることになるなんて。
「二葉ちゃん…?」
すがる様な目で私を見てくる徹くんの頭に、思わず手を伸ばす。なでなで。
突然のことでビックリしたのか徹くんは目をパチクリさせて私を見てきた。
「徹くんのこと、嫌いになるわけないじゃん」
私の本心を誤解のない様に伝えないと、変に話が拗れてしまいそう。それじゃダメだ。徹くんにちゃんと理解してもらわないとダメなんだから。
「私は、徹くんとずっと一緒に居たいから、だから、決めたの」
私の言葉に、徹くんは首を傾げる。でも口を挟むつもりはないみたいで、私の言葉の続きを待っているかの様にじっと私を見てくる。
「徹くんがずっとバレーしてるなら、私はそれを支えたい。でも、今の私じゃ徹くんには釣り合わないの」
「そんっ!…な、こと……」
徹くんは思わず声を上げてしまったのか、慌てて声のボリュームを下げていった。目線を下げて、でも何か言いたげに口を尖らせていた。
「徹くんは優しいから、私をいっぱい助けてくれる。すごく嬉しいよ」
膝の上で握られている徹くんの手を両手で握る。徹くんの手は力強く握られていて、少し指先が白くなっている。力が少しでも抜ける様に徹くんの指先を開かせるつもりで指を動かす。意外とすんなり開いて、少しビックリしてしまった。
「だったらさ…」
「違うの、だからなの」
未だに元気の出ない徹くんの声を遮ってしまった。徹くんの口は変わらずに尖ったままで、何だか小さい子供みたいで見ていて笑ってしまいそうになる。でも、ここで笑ってはいけないのはいくらなんでも分かってる。
「徹くんに甘えてばっかりで、私だけじゃ何にも出来ないの。このままじゃ、徹くんを支えきれないの」
言いたいことがぐちゃぐちゃになってきた。でも、とにかく伝えなきゃいけないから口は止めない。
「私の力で、徹くんにもお兄ちゃんにも甘えないで、私の力で徹くんを支えたいの。徹くんの力になりたいの。だから、青城じゃダメなの」
困った時に頼ってばかりの私じゃダメだから。
そう言うと、徹くんが少し寂しそうに笑った。
「俺は二葉ちゃんに頼られるの、嬉しいんだけど…うん、そっか」
「……もっとちゃんと相談しなくてごめん…」
「寂しいけどさ、ぶっちゃけすっごく寂しいけど、でも俺の為なんだと思っておくからね!」
徹くんが私の手を取って、その大きな手でぎゅっと握り締めてくれる。すっぽりと収まってしまった私の手は、徹くんの体温でほんのりと暖かくなる。
徹くんの表情は、もう笑顔になっていた。
「私も、すごく寂しいよ」
「あー、もう!!そういう可愛いこと言うの反則!」
徹くんが突然手を離したと思ったら、勢い良く抱き着いてきた。余りの勢いに、私は徹くんを支えされずに座椅子ごと後ろに倒れる。ゴツンという音と頭への痛みで小さく声が漏れたけど、徹くんは構わずにぎゅうぎゅうと私に回した腕に力を入れている。
その様子が何だか可愛くて、頭の痛みなんてどこかに飛んでいった。
「今日は暫く離れないからね!」
「うん、徹くんならいいよ」
「…っ!好き!二葉ちゃん大好き!!」
「……私も、」
そう言い掛けた時に徹くんがすごい勢いで私の顔を見てきた。目がキラキラとしていて、期待しているのがありありと分かる。そんな顔をされてしまうと、恥ずかしくないことでも恥ずかしい気がしてきて、徹くんの腕の中にいることすらも恥ずかしいと感じて、何とか抜け出せないかと身体を動かしてみる。
「え、ちょっと、何で逃げようとしてるの!?」
「だって…なんか恥ずかしい…!」
「今更!それより、続きは!?二葉ちゃんも、なに!?」
あからさまに要求してきた徹くんから尚も逃げようとしてみる。でも逃がす気がないらしい徹くんの腕の力は緩む様子もない。
「ダーメ!離れないって言ったでしょ!」
ぐりぐりと頭を擦り付けてくる徹くんが可愛く思ってしまうのは好きだからこそだろう。仕方ないな、息を吐いて徹くんの背中に腕を回す。
「好きだよ」
「……!うん」
「徹くんが、だいすき」
「俺も、二葉ちゃん大好き」
これでもかという程ぎゅっと抱き着くと、徹くんは力いっぱい抱き締めてくれた。
20170902
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