目指せ!世界一
「二葉ちゃん、どこが第一志望なの?」
漸く私を離してくれた徹くんが徐に口を開いた。よいしょ、と起き上がった徹くんが私の身体も起き上がらせてくれる。倒れた座椅子から離れた、と思ったら、何故か徹くんが布団に倒れ込んで、次は二人で布団に転がることになった。
「バレー部あって、やっぱ強いトコ?え?まさか白鳥沢とか言わないよね……?」
「白鳥沢は無理だよ。あそこ難関だよ?」
「二葉ちゃんなら行けそうだし…」
「もし行けたとしても、行かないよ」
徹くんのライバルがいる所にわざわざ行こうなんて思わない。
一応、第一志望は決めているし、徹くんの様子から伝えても問題はないだろう。
「烏野」
「え?」
「一回、全国行ったことあるでしょ、烏野」
「あー、そういえば。そっかー烏野かー」
ちょっと遠いなー、と呟く徹くんは心底残念だと顔に書かれている様だ。
「でも、最近の烏野ぱっとしないよね」
だから青城に、って言外に言われてる気がした。バレーだけを動機にすれば確かにそうなのだけれど。
恥ずかしながら、実は烏野を選んだ理由はもう一つあるんだが、これを伝えるのはホントに恥ずかしい。
「ん?二葉ちゃん、百面相?どうしたの?」
「えっ!?な、何でもないよっ」
不思議そうな顔をして私の顔を見てくる徹くんに、ぶんぶん首を振って否定する。でも納得してなさそうな徹くんは上体を少し起こして、私に更に近付いてきた。徹くんの手が私の頭の横に置かれて、一気に距離が縮まった。
「なになに、二葉ちゃん、俺に隠し事ー?」
「違うよ、何にもないよ」
「嘘はダメだよー、俺には分かるんだから!」
えっへん、とでも言いたげな徹くんの顔についつい笑ってしまう。そんなわけないのに、徹くんの顔を見てれば本当にそうなんじゃないかと思えてくるし、第一隠し事をしちゃダメな気分になってくる。
惚れた弱み、ってやつだろうか。
「せ……、」
「せ?」
「制服が…さ、」
徹くんはパチクリと目を瞬かせる。これを言ったら徹くんは笑い飛ばしてくるだろうか。いやいや、そんなはずはない。でもやっぱり恥ずかしいから、声が勝手に小さくなっていく。
「烏野の制服、かわいい、から……」
ちらっと徹くんを見る。未だにパチクリしてる。
「徹くんの周りの人、みんな可愛かったから……」
「うん……?」
「だから…あの、えっと……」
よく分からないって顔の徹くんに対して、言葉を詰まらせていたけれど、もう恥を忍んで言うしかない。
「可愛い制服着れたら、少しは胸張って徹くんの隣に居れるかな、って思ったの…」
今日見た人達は、みんな私のことを疎ましく思っていた。徹くんの隣にいるのが私では、釣り合わないと思われたんだろう。徹くんは人に好かれる。そんな彼の隣にいる私は、せめて服装だけでも可愛い方がいいだろうと、余計に思ってしまった。
「二葉ちゃんは世界一可愛いの!」
パチクリしていたはずの徹くんが、突然覆い被さってきて、大きな声を出した。耳元だったこともあり、肩が跳ねたけど、徹くんは全く気にせずにまだ何かを言いたげにうーと声を漏らしている。
「徹くん……?」
「俺にとっては、誰よりも二葉ちゃんが可愛くて、それは絶対なの!」
「……うん、」
「でも、……ごめんね、俺が心配させちゃったんだね…」
徹くんの声が急に力なく萎んでしまったから、次は私が目をパチクリさせる番だ。どうして徹くんがションボリしてしまうのか。
「徹、くん…?」
「俺もちゃんとしないとね。二葉ちゃんと釣り合えるくらい」
「徹くんはちゃんと、ちゃんとしてるよ?」
「岩ちゃんより?」
「う…んと、」
「ほらー!俺の目標は岩ちゃん越えなの!」
思わず答えに詰まってしまったところを突かれた。
お兄ちゃんを引き合いに出すのはズルい。でも、もうションボリしていないからよかった。
「徹くんがんばれ」
「うん!二葉ちゃんに世界一って言ってもらえるように頑張る!」
えへへー、と笑う徹くんのいつも通りの笑顔に安心して、私もつられて笑う。
徹くんがぎゅーって言いながら私を抱きしめてくるのを受け止めながら、徹くんが徹くんで良かったと心底思った。
20170909ALICE+