気苦労など露知らず


「ウォームアップの前に各自準備体操しとけよ。1年、応援席の準備、2年の手の空いてる奴、ドリンクの準備な」
「はい!」


階上くんの言葉に、一斉に返事をして皆、各々の行動に移った。ドリンク準備をしてもらっている間に、私も監督と一緒に試合の準備をする。荷物は必要な物以外、申し訳ないが1年生に預けて、スコアブックと自分のノートに今日のスターティングメンバーの名前と、対戦校名を書く。

“雪ヶ丘中”

何度確認しても、それは変わらなかった。さっきの男の子は私に気付くだろうか。頑張ってなんて言った相手が優勝候補だなんて、どう思うだろう。素直そうな良い子だったけど、嫌味だなんて思われてしまうだろうか。


「二葉さん」
「、わっ、国見くん…!」
「中に移動してるよ」
「ごめん、ありがとう」


変に考え事をしてしまっていた私の意識を引っ張り戻してくれた国見くんは、すたすたと歩いて行ってしまった。前を歩くレギュラーとベンチ入りのメンバー。
そうだ。私は、このメンバーで全国に行きたいんだ。他の学校の人に構ってなんていられない。何て思われようとも、今日も明日も勝って全国への切符を手に入れるんだ。


「北一!!北一!!」


体育館に入ると、応援席から大きな声援とガンガンとメガホン同士が当たって出る音が聞こえてきた。私は未だにこの音に慣れない。頭に響く感じが、苦手だ。


「でかっ…!?」
「こわい!!」
「ちょっ…アイツらが相手!?本当に中学生かよ!?」


一番後ろで小さくなって歩いていたら、右から声が聞こえてきた。チラリとそっちを見ると、さっきの男の子達が、何やら青ざめた顔でメンバーの皆を見ている。


「あ…!」


オレンジの“翔ちゃん”君と目が合う。手を振ってみたら、カチンコチンの動きで手を振り返してくれた。その様子に気付いたのか、残りの男の子も私の方へ視線をずらしてきた。


「入り口にいた可愛い子!強豪のマネだったのかよ!!」
「くそっ、マネージャーまで居るなんて……!」
「か…かわい…っ!?」


黒いツンツンとした髪の男の子が私を指差して大きな声を出した。何となくお兄ちゃんと似たタイプの顔立ちをしている彼が口にした言葉に驚いて思わずどもってしまった。

徹くんには言われ慣れている。
可愛い可愛いって、それはもう物心付く前から言われ続けていて、もう挨拶みたいになっていたから。徹くんからなら、ドキッとするけど、でも無事でいられる。
でも、他の人からは言われないから、驚くし恥ずかしいしで、持ってきたノートに思わずぐしゃりと力を入れてしまった。


「二葉さん、何してるの」
「く…国見くん…!!」
「早く行くよ」
「ごめん……あ、皆もごめんなさい…!」


国見くんが助けに来てくれたので、慌てて男の子達に頭を下げてベンチまで向かう。
後ろから気合の入った声が聞こえてきたけど、何だかもうそれどころじゃなくて、ぐしゃぐしゃになったノートを伸ばして、溜め息を吐く国見くんに謝り続けた。





20160116
(そういうのさ、ちょっと気を付けてよ)
(ふえ!?ごめん、私、ごめん!迷惑掛けてたね、ごめん!)
(いや、そうじゃなくてさ…)

(そういう顔外でさせたとかバレたら)
(何故か俺があの二人に怒られるんだから)
(多分、本人は一生分からないだろうけど)
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