次への約束
帰り支度も済んだところで、カバンから携帯を取り出す。朝、笑顔で見送ってくれた徹くんに今日の結果を報告するのだ。
「無事に勝って…、明日に、進出しました…、っと」
言いたいことは沢山あったけれど、簡潔に結果だけ伝える。話したいことは、帰ってから直接話せばいい。送信ボタンを押して、携帯をジャージのポケットへと入れてから荷物を持つ。監督は既に動く準備万端だし、後は今日のレギュラーメンバーが荷物を纏めるだけだ。動き出す皆の居た場所を、忘れ物が無いか確認しながら歩いてると、ポケットの中の携帯のバイブが鳴った。返事が来たのだろうか。今日は練習試合だと聞いていたのだけれど。
一旦足を止めて携帯を確認する。思った通り、徹くんからの返事だった。ちょうど休憩中とかだったのかな。
『おめでとう!俺も今日は良い調子!明日の決勝の時間なら応援に行けると思うから、決勝まで行ってね』
笑顔の顔文字まで付いている徹くんのメールを見ると、自分のメールが恥かしくなる。徹くんみたいに、上手に顔文字とか、絵文字とか使えたらいいんだけど、どう使っていいのか分からない。そんな私のメールを徹くんは、可愛いから好き、と言ってくれる。それも恥ずかしい。
「よし、忘れ物はないな」
監督が言った言葉に、慌てて携帯をしまう。周りを見ると、皆荷物を纏め終わっていて、私が最終チェックをすれば終わりところまでいっていた。
「はい、大丈夫です!」
最後にグルッと見渡して、監督に返事をする。私の言葉に監督は頷いて、全員外に行く様に指示をした。最後に今日の反省と総評、明日の集合時間と集合場所を決めるのだ。もう一度だけ、忘れ物の有無を確認して、皆を追い掛ける様に一番後ろに並ぶ。影山くんが前に居た。そうだ、さっきの、流石にヒドイよって言わなくちゃ。きっと、誰も影山くんにそんな指摘しないんだろうから。
「影山くん、お疲れ様」
「ん?ああ、お疲れ」
さらっと言った影山くんの顔には疲労はなかった。確かに試合時間自体は短かったから、体力のある影山くんからしてみれば、何でもないレベルだったのだろう。
影山くんの隣に並んで、顔を見上げる。いつも通りの、少しつまらなさそうな顔。
「雪ヶ丘中の主将、すごかったね」
私の言葉に、影山くんの表情がピクリと反応した。試合終了時点であんなに絡んでたんだから、誰か知らないなんて言わせない。
「影山くん、なんであんなこと言ったの?」
「別に…」
「別にって…」
何でもないことなんてないだろうに。
バレーで手を抜く事を嫌う影山くんは、自分だけじゃなく他人が手を抜いている事も嫌う。でも、逆に一生懸命な人の事を、意味もなく嫌ったりしない、と、信じてる。
「あんなに頑張ってる人に対して、何やってたんだ、ってヒドイと思うよ」
「……」
無言を貫こうとする。じっと見てても、影山くんが何か言おうとすることはない。
「影山く…」
「お前が!!!」
「!!?」
突然、上から大きな声が聞こえてきた。何事かと思って上を見ると、丁度階段の前を歩いていたらしく、階段上に翔ちゃんくんがいた。下を向いているから顔が見えない。
「コートに君臨する“王様”なら!!」
訳が分からない、という顔をしていた影山くんは、顔を上げた翔ちゃんくんを見て真剣な表情に変わった。
「そいつを倒して、おれが、一番長くコートに立ってやる…!!!」
翔ちゃんくんは、泣いていた。
ボロボロと、流す涙を隠すこともなく、泣いていた。
最初は顔だけで後ろを見ていた影山くんが、無言で身体ごと振り向く。二人が向かい合う形になる。
「…コートに残るのは勝った奴……強い奴だけだ。勝ち残りたかったら、強くなってみろよ」
影山くんの言葉で、翔ちゃんくんの涙が止まった。
二人は少しだけ真っ直ぐに視線を合わせていたけれど、影山くんが振り返ったことで離れた。影山くんを追い掛けていかなければいけないのだけれど、ちらりと翔ちゃんくんを見ると、丁度目が合ってしまった。
「日向、翔陽くん、だよね?」
「うぇ!!?は、はいい!!!」
あの雰囲気の直ぐ後で、あれ程の奇声を上げられるなんてスゴイと思ったけれど、彼にとってそれは別に褒め言葉ではないだろうから言わない。
「名前、パンフレットで見たの」
「あ、うん」
「すごかったよ」
「え?」
彼に私が感じたことを伝える。最初に会った感じだと、大会慣れてないみたいだったし、そんな中での一方的な試合にバレーが嫌いになっていたりすることもあるかもしれない。そんなの、勿体無い。
「今日の試合で一番スゴイと思ったよ」
「ああああありがとうございます…!!!」
「私ね、高校に行ってもバレー部のマネージャーするつもり」
唐突な話の展開に、翔ちゃんくんは変な声を出した。もし私が彼の立場でも同じリアクションをしてそうだ。それくらい、私の話は突然なものだと自覚がある。
「来年も、大会で会おう。いっぱい練習して、もっとスゴイ選手になった君に会いたいな」
それだけ、って笑ってみたら、翔ちゃんくんがまた泣きそうになりだして焦ったけれど、後ろから彼の仲間が近付いてきたのが見えたから手を振って、別れる。
前の方を歩く影山くんへ駆け寄る。監督が立ち止まってて、人数の確認をしていた。横目で見た影山くんが、試合前みたいにギラギラした顔をしていて、監督の話を聞きながらもその変化が気になって仕方なかった。
20160209
(及川、何キモい顔してんだ)
(キモい…!?岩ちゃんヒドイ!!!)
(何か今日1日、嫌な感じなんだよねー)
(は?さっきまで携帯見てニヤニヤしてたくせに)
(してないし!!!言い方ヒドイ!!!)
(二葉ちゃんが愛想を振りまいてる気がして不安……)
(はい、ウザ川決定ー)ALICE+