今の居場所
「へぇ、プリノ、バイオリン弾けるんだ!」
「でも…あんまり上手じゃなくて…」
「いやいや、すごいよ。私、自慢出来る特技なんてないからさ」
赤面しながら、手を振るプリノは、仕事で見せている真剣な表情とは違い、年相応の笑顔で、見ているこっちも笑顔になれる。
プリノとは、仕事終わりにどちらともなく部屋を訪ね、何でもない話をする様になった。何度か繰り返す内に、私の城にいる時間の大部分がプリノの側と言える程、仲良くなれた、と私は思っている。プリノがそう思っていなかったら悲しい。
「遥さんは、何でも器用にこなしてしまうじゃないですか」
「…器用貧乏なんだよ」
私が出来るのではなくて、隣にいるプリノが良いところでドジをするから、出来ている様に見えるだけだと思うんだけど。
薄く笑いを溢すと、プリノは嬉しそうに笑った。プリノが笑顔で、私も嬉しくて、もっと笑顔になる。自分のことを話せる相手がこの城で出来るなんて、想像出来なかった。部屋着で、女の子の部屋へ行く自分など、昔の私が見たら驚くんじゃないだろうか。
――プルルルルッ
二人で話していると、不意に、プリノの部屋の電話が鳴った。
プリノが首を傾げながら立ち上がる。プリノの後ろ姿を見つめながら、昔の昴の姿を思い出す。部屋の中でゆったりとしながらも、重要な書類には追われていたし、何か問題があったら呼ばれていた。その昴の仕事を代行しているのだ。忙しくて当然か。
「はい……はい。そうです。はい、では」
「仕事か?」
ガチャリと電話を切ったプリノに問うと、小さく頷いた。明らかに疲れが顔に出ている。ポンポンとプリノの座っていた所を叩くと、ゆっくりとやってきて、ポフンという効果音が付きそうな様子で座った。何この生き物、可愛い。
よしよしと頭を撫でると、プリノはビックリして私を見た。パチクリとしている瞳に、私が映っている。何故だか、彼女の中の私が、滑稽に見えて、目を反らす。
ベッドから立ち上がって、空いたスペースへプリノを寝かせる。
「え、え?遥さん?」
「ほら、疲れてるだろ」
布団を被せて、プリノが寝れる様にポンポンと背中を叩き続ける。最初こそ焦っていたプリノだったが、やはり疲れていたのだろう。直ぐにうとうととし始め、瞼が下がりきったのを確認してから、立ち上がる。最後にしっかりとプリノに布団を掛け、静かに扉から出ていく。
廊下に出ると、夜だから静かで、少し冷えた。腕を組みながら、羽織っていたパーカーをきつく握り、自分の部屋を目指す。コツコツと響く足音を聞きながら向かう私の部屋には、誰もいない。無機質な部屋。私にピッタリだ。
「……す、」
思わず呟きそうになった名前を飲み込む。呼んじゃいけない。
私が放した手を、私から求めてはいけない。そろそろ紅やキャロルが探し出している頃だろう。それが終われば、彼が自分の意思で戻って来ない限り、この城での再会はない。
私が、この城に居る意味だって、もうないんだろう。
部屋の扉を開けて、ベッドへと倒れ込む。枕元にいるクロからはまだ昴の魔力がする。私はまだ、一人じゃない。
ぎゅっと抱き寄せると、少し暖かい気がして、さっきまで眠くもなかったはずなのに、ゆっくりと意識が遠退いていった。
to be next...
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