これで安心


「おやおや?」
「……珍しいな」
「おかえりー、キャロルに紅」


城の玄関を入って直ぐの柱に身体を預けて待っていたら、疲れた顔をした二人がやってきた。じっと見ていたら私に気付いたらしく、キャロルが笑顔になった。紅の表情は全く変わっていない。無表情め。


「大変だっただろ?」


何がとは言わないが、二人にはキチンと通じただろう。キャロルの笑顔が少し固まった。紅は無表情が少し不機嫌そうになった。
二人の肩をポンポンと叩き、労う。そのまま先に進む様に促せば、二人はゆるゆると歩き始めた。

二人の後ろをついて行く。キャロルと紅の部屋は、他の軍の人間の部屋から少し離れている。仮にも側近だからなのか。キャロルの部屋の前で、キャロルと別れた。私がここまで一緒だった理由を何となくでも察しているのだろう。何も言わずに部屋へ入って行った。


「キャロルって、相変わらず空気読むの上手いな」
「読んだ上で壊す奴だ」
「そっか」


紅に促されて座り、思ったことを呟いてみたら、予想通りの返答が来た。常に行動を共にしているから、二人は口では喧嘩をするがきちんと信頼しあっているんだろう。仲良くやっている様で、嬉しくてついつい笑みが溢れた。
紅は怪訝な顔をしながらもいつの間にか用意していた日本茶を淹れてくれた。温かい湯呑みを手の中で転がしながら、私は紅を見る。紅の眼が、真剣なモノに変わった。自然と、背筋が伸びた。


「アイツのこと、聞きたいんだろう?」
「うん、……元気そうだった?」
「ああ、何も変わっていなかった」
「そっか、よかった」


紅の言葉に、緊張が解けたのか大きく溜め息を吐いてしまった。
紅が怪訝な顔で私を見てくる。
ヘラッと笑い返すと、紅の眉間に深い皺が刻まれた。


「折角のイケメンが台無しだぞ」
「知るか」
「残念」


紅は眉間の皺をそのままにお茶を啜った。
昴と似た顔立ちをしている紅は、仏頂面さえ止めればさぞかしモテるだろうに。
手の中で転がしていた湯呑みを握って、お茶を啜る。少し冷めたから飲みやすかった。


「紅は今後どうするんだ?」
「今までと変わらない」
「そうか」


王の側近として、今まで通りというつもりなのか、昴の側近として今まで通りというつもりなのか。
私の中ではそれは重大なことだけど、紅に聞く勇気もなかった。


「お前はどうするつもりだ?」
「私はね、」


言葉を選ぶ為に一息置く。お茶を口に入れて、頭の中でベストな言葉を探す。
紅は先を急かすわけでもなく私をじっと見ていた。観察されてるみたい。私の様子を、変な気を起こさないか気にしているんだろうか。
静かに、口の中のお茶を飲み込む。


「私に出来ることをするつもり」


紅の視線を、真っ直ぐに受け止める。紅がピクリと反応した。私の目を見て何か思ったのか、でも私にそれは分からない。
先に紅から視線を外して、湯呑みの中を確認する。少し残ってた分を一気に飲み干して、立ち上がった。


「今日はありがと」
「もういいのか?」
「うん、紅が変わってないって判断したなら問題ないしな」


意外と心配性な紅の判断を信じるよ。
笑って言うと、紅が嫌そうな顔をした。

私に続いて立ち上がろうとするのを止めて、その場で別れを告げて紅の部屋を出る。
廊下は少し寒かった。
カーディガンの袖を擦りながら、自分の部屋を目指す。





to be next...
ALICE+