意識覚醒まであと一秒
はっきり言って、どうしてこうなったのか全く分からない。
わんわん、わんわん。
さながら子犬の様に鳴き声を上げるプリノの姿は、撫で回したい位可愛いけれど、何故か、紅の側から離れない。右に左に行ったり来たりしながら紅の様子を伺っている。
私より紅に懐いているのが悔しくないとかそういう問題じゃない。いや、素直に言う。悔しい。一体いつから二人はそんな仲になっていたんだ。じとりと紅を睨むと、彼も訳が分かっていない様で、まずプリノの頭に怪我でもあるのかと疑っていた。
「どうしたんですかね、将軍…」
「何で紅……」
「わんわん!」
「…頭を打ったのかもしれない。医務室へ行くぞ」
「あ、……ああ、そうだな、連れていこう」
ハートを飛ばしかねない勢いのプリノを見ていると衝撃が強すぎるので、思わず視線を外してしまう。
紅が医務室の提案をしたので、キャロルを先頭に私、紅とプリノの順で歩いていく。
わんわん可愛く聞こえてくる声に虚しさが込み上げてくるので、前のキャロルに声を掛ける。
「キャロル、どう思う?」
「頭をぶつけただけならいいですね」
キャロルはさらりと言ってのけた。
「そう思ってないだろ」
「そういう遥さんはどうなんですか?」
聞いた私に対し、笑顔のままでキャロルは質問で返してきた。
恐らく、キャロルの中で出ている一つの推測は私のソレと一緒だろう。
プリノの目の前にあったのは、木乃伊だ。魔狼の、木乃伊。あれが一体何なのかは、私は知らない。ただ、片腕の姿だから、前の“魔王の右手”なのだろうと勝手に結論を出していた。
右手のみのソレはあんな姿になっても尚、強い魔力感じる為、厳重に箱に入れられ、人の目に付かない所に保管されたのだ。
今回、こんな形でプリノの前に晒されるなんて、考えてもみなかった。戦う力を持たないプリノにどんな悪影響を及ぼすのか。隣に居たにも関わらず、守ってあげられなかった自分が情けなくて仕方ない。
「ささ、着きましたよ、遥さん!そんな情けない顔をしていないで将軍を診てもらいましょう」
「情けないって……お前失礼だな…」
自分ではそう思えても、人に言われるのは何となく嫌な気分だ。
変わらずに笑うキャロルは深い意味はなく言ったのだろうが、こっちからしたら心中察した状態だ。そんなに分かりやすく表情に出していたのかと不安になる。
「遥さんにしては珍しいと思いまして」
「……うるさい」
医務室の扉を前にしながら、私とキャロルが扉を開くことなく会話していることに紅はもどかしそうに口を挟んでくるまで、二人で笑顔の睨み合いを展開していた。
勿論、じゃれ合い程度で。
*
「あの立ち入り禁止の場所に入ったと…?」
医務室に入り、事情を全て知っているキャロルがナースさんへ話をした。紅は相変わらずプリノへ対応しきれず、ただただベッドの上で大人しく座っていた。
真剣に話すキャロルの横へ、ナースさんと対面する形で椅子を引き摺ってきて座りながら、私自身も事の始まりを知ることになった。
「興味本位で中にあるライカンスロープの木乃伊を見ようと侵入した兵がいたものですから…」
「そんな事にプリノを巻き込むなよ」
「すいません…」
キャロルはきちんと悪いと思ってる様で、ペコリと頭を下げてきた。私に謝られても、巻き込まれたのはプリノだし。
「「それで…」」
キャロルとナースさんが声を揃えた。そして二人でプリノの方を見た。つられて私もプリノを見る。
「なんでだかあんなことに…」
「えらく懐いてるわね」
視線の先には、紅の右腕に擦りついて甘えるプリノ。これで紅の顔に嫌な青さがなければ、二人はお似合いカップルにしか見えない。明らかにハートが飛んでいる。
「コケた拍子に頭でも打ったかと思ってな…。なんでもいいからどうにかしてくれ」
困っている紅の横で、紅の肩に顎を乗せる形でプリノがうつらうつらとしているのが見えた。プリノが眠いのか、もしかしたらプリノに憑いた魔狼の意識が薄れているのか、どちらにしろこのタイミングでプリノの意識が戻るかもしれない。
それに気付かぬまま、紅は言葉を続けた。
「こいつを!」
ぱちりと、プリノの意識が覚醒した。
to be next...
ALICE+