消えたモノ
思う存分泣いた遥は、疲れも重なってそのまま眠ってしまった。
子供の様な寝顔に、昴は微笑む。どんなに大人っぽくなっていても、寝顔は変わらないものなのか。
「……あ、」
いつまでもこの部屋にはいられない、と思い立ち上がろうとした昴は、あることに気付いた。遥の手が自分の服の裾を握っているのだ。
そういえば、小さい頃の遥はひどく寂しがり屋だった。
とにかく安全だと思った所でしか寝ることが出来ないし、何もない部屋でも眠れないのだ。
そんな姿を見かねて、ぬいぐるみを買ってあげたのが懐かしい。
「どうしよ…」
このままだと、自分を探しに来た誰かに遥が起こされてしまうかもしれない。
こんなに良く寝ているのに、起こしてしまうのは悪い。
どうにかして出なくては。
そっと頭を撫でてやる。
遥は小さな子供の様にふにゃ、っと笑った。
一瞬固まってしまった昴だが、直ぐに声を押さえて笑う。
一体何歳のつもりなんだろうか。
枕元の黒猫のぬいぐるみ――確か名前はくろ――を遥の手元まで持っていくと、昴の服を掴んでいた指がピクリ、と動き、くろに触れた。
そのまま昴の服を放し、くろを掴んだ。
解放されは昴は、気を付けながら遥の頭を撫で、立ち上がる。
くろに軽く己の魔力を注いでおけば、遥も安心して眠ることが出来るだろう。
静かに扉に手を掛け、昴は遥を見つめる。
「おやすみ、遥…」
起きるまで待ってるから、起きたらおはようって言って、昔話をしよう。君がいない間に随分色々あったんだ。
――ガチャッ
「ふぅ…」
今朝までのダルさも全くと言っていい程なくなった。原因は理解していたし、問題は解決したということも分かっている。
部屋を出た先の廊下で軽く伸びをしていると、廊下の先から走ってくる音が聞こえてくる。段々と近付いてくる音の方を見ると、部下の一人が慌てた様子で走っていた。昴はもう一度大きく溜め息を吐くと、走ってくる部下を迎える。
「魔王様!こんな所にいらっしゃったのですか!」
部下は昴を見付けると、安心した顔をしてから、いつもの勇者が来ている、と告げた。
やっと来た。ずっと待っていたのに、やっと来た。
口元に笑みを称えながら、昴は小桃の待つであろう部屋へと向かう。
今日は本当に機嫌が良い。
小桃とどんな話をしようか。
そうだ、小桃に遥の事を紹介するのも良いかもしれない。
きっと小桃も気に入ってくれるだろう。二人は仲良くなれそうだ。
クスッと笑う声が廊下に溢れ、昴の後ろを歩いて部下が首を傾げる。何か面白いことでも思い付いたのか、笑う上司に嫌な予感ばかりがする。
早足で歩く昴を追う部下は、頬を伝う冷や汗を拭いながら気付かれない様に小さく溜め息を吐いた。
to be next...
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