さよならへの一歩
「……す、ばる…?」
自分の小さく呟いた声に、目が覚めた。瞼をゆっくりと開けて周りを見渡してみても、名前を呼んだ相手はいない。
いつの間にか手の中にくろがいた。昴の魔力をくろから感じる。昴の優しさを垣間見れたことに、無意識に口許が緩んだ。
遥はベッドから起き上がると、くろを枕元に置き直して体を動かす。少し伸びをしてから、立ち上がって部屋を出る。
イヤな夢を見た。
今すぐに昴の顔が見たい。
廊下を歩けば、見慣れた景色の中に見知らぬモノが多数ある。その中から見知ったモノだけを見て、昴の部屋へ向かう。
昴の部屋は良く覚えている。大きなハリボテの扉があるのだ。形から入るタイプだった彼のワガママで作ったと噂で聞いた。
普通サイズの扉を前に遥はノックをするべきか考える。以前まではそんな事考えたこともなかった。
顎に手を当て少し悩んでみるが、小さくノックをしてゆっくりと扉を開けることにする。
中からは話し声がするので、誰かはいるのだ。もし昴がいなくてもその人に居場所を聞けばいい。
コンコンッと廊下に小さく音が響く。中は話し込んでいるのか、ノック音に気付かない様子だ。
静かに扉を開いてみると、遥の目に広いスペースにぽつんと置かれたコタツとそこに行儀悪く乗っている昴、見知らぬ少女、昴の部下達が入ってくる。何やら部下の一人が呆れながらも昴に話し掛けているらしく、その声が途切れ途切れに聞こえる。
「すば「魔王やめた」
声を掛けようと口を開いた遥の言葉を遮る様に昴の声が発せられた。大きな声でないにも関わらず、その言葉は部屋中に木霊した。
イヤな夢を見た。
それは本当に辛くて、そんな事はないんだと否定して欲しかった。
大丈夫なのだと、勝手に思っていた。
――昴が、いなくなる夢を見たんだ。
to be next...
ALICE+