思い出すのは

「万事屋さん、」
「……あ?」


銀時は怪訝な顔をして私を見た。私が此処に来たばかりの時のように呼んだからだろう。銀時はきっと思い出しているんだと思うけど、でもまだ何も話していないんだから、そう呼ばせてもらう。
掛け布団をぎゅっと握りしめ、銀時に向けて頭を下げる。


「私の依頼を解決して頂き、ありがとうございます」
「ん?……天パ長髪ギラギラ系男子?」
「えっと、はい……え?」


そんな依頼をしたっけ。銀時の口から出た言葉に、思わず間抜けな声が出てしまった。銀時の顔を見る限り、ふざけている訳ではなさそうだ。そういえば、彼に直接依頼の話をしていなかった様な気がしてきた。神楽ちゃんからの又聞きか話の断片を聞いていたのか、それとも私の話し方が悪かったのか、探し人とは違う人を探してもらっていたようだ。


「見つけてねェけど?」
「いや、あのですね…」


頭をガシガシと掻き、銀時は首を傾げた。これは分かっててやってるんだろうか。私の口から全部事細かに話せということか。よく見たら、微妙に目が笑ってるし、口も笑いを堪えるつもりもないのかニヤニヤしている。ドSか。ああ、そうだ、こいつドSだ。
じとりと銀時を見るけれど、彼は全く気にしていない。くやしい。


「……私が探していたのは、天パでドSで目が死んでるどうしようもなくちゃらんぽらんな男です」


悔しいから、少し嫌味を織り混ぜてみた。銀時は私の言葉に分かりやすく肩を跳ねさせた。


「…へ、へェー、そんなヒドイ男いるもんなのかねェ」
「目が泳いでますよ?」
「いやいや、泳いでないよ?別に心当たりあるとかじゃないし?俺も同じ天パとして、ちょっとね、ほら、あれだよ、ちょっと間違えられたら困るなァ、と思っただけだよ?」
「汗かいてますよ?」
「これは、ちょっと暑くてさ、いやァ代謝がいいって困るわァ」


何故か頑なに認めようとしない銀時を暫く見つめていると、諦めた様に大きな溜め息を吐いた。


「お前、俺のことそんな風に思ってたの…?」
「事実でしょう」
「銀さん凄く傷ついた…」


Sは打たれ弱いの、と呟く銀時に、流石にやり過ぎたかなと思い、しょんぼりと項垂れてしまった頭をポスポスと撫でる。銀色の髪の毛がふわふわとして気持ち良い。こんな風に頭を撫でるのは、実は初めてで、何か新鮮だ。
銀時がチラリと私を見てくる。その様子が捨て犬みたいで笑いそうになったけど、この状況で笑うと後々にドS攻撃を受けそうだから我慢する。


「ホントはですね、」
「……ん」
「探してた人が目の前に居て、驚いてしまって。つい、適当に話してしまったんです」


初めて来た江戸の町でひたすら人を探して歩いていた私に、万事屋の存在を教えてくれた人が、案内までしてくれて、これで見付かるかもしれない、と意気込んでチャイムを押して、開いた扉の先に、探し人。驚かない方がおかしい。しかも、どうやら私に気付いていない様だったから、何だか悔しくて分かりにくい様に、色々な仲間の特徴を上げてみたのだ。あわよくば皆見付からないかな、という下心もあったけれど。


「一番会いたい人が、目の前に居たので、他の皆の特徴を…」
「あァー、長髪と、ギラギラ系ね。成る程」
「小太郎とも、まさかこのお店の前で会えるとは思わなくて…」


長い綺麗な髪を靡かせて歩く姿に、思わず小さな声で話し掛けてしまったのだ。元気そうで良かった、と。多分、彼は私に気付いていたから。


「ンで?」
「えっと…?」


銀時が徐に疑問符を口にしてきた。何を促してきているのは分からなくて首を傾げていると、銀時は視線を何度かさ迷わせてから私を見た。


「お前の事、聞かせてくんねェの?」
「あ、……そうですね」
「気付かなかった俺も悪ィけどさ、俺の中では茜は男で、あん時居なくなったっきりだぜ?俺のこと探してたっつってもピンとこねェし」
「……何でだか、銀時に、会いたくなったの…」


あの日の事を、まず思い出す。
私にとっての最後の戦。銀時の背中に声を掛けた、最後の日。





20160302


back : 抒情的調べへ
ALICE+