否定ばっかり
茜が話し終えた時、勝手に身体が動いた。左手首に巻かれていた包帯を無理矢理外しに掛かる。茜は軽く抵抗をしたが、純粋な力でなら茜が俺に敵う訳もない。にもかかわらず、この抵抗の仕方は左手首に見せたくないモノがあると言っている証拠だ。
まだ体力の回復していない茜を押せば、簡単に茜の身体は布団へ沈んだ。そのまま馬乗りになる形で茜を抑え、包帯を外す。
「……っ!だめ、銀時っ!!」
包帯の下には、傷があった。まだ完治していないらしく、今回の騒動で傷口が開いていた。うっすらと滲む血に、思わず舌打ちする。ビクッと茜の身体が揺れた。
「転んだ、ねェ…」
「あ、ちが…ごめ、銀時……ちがうの…」
「…何謝ってンだよ」
茜はひたすら謝っていた。何がごめんなのか、それを説明出来ないならその謝罪に意味はない。俺の声のトーンが沈んだことに茜も気付いたのだろう。口を開いては閉じるを繰り返しながら、でも、言葉は紡いでいなかった。
「茜が死にたかったなら、今回助ける必要なかったかねェ」
「ちが…」
「だから、何謝ってんの?俺に謝る理由ってなに?別にお前がそうしてェなら俺の事なんざ関係ねェだろ?」
「……今は、後悔してる。散々銀時に自分の命大切にしろって言われてたのに、自分から死のうとした。それに、今回も、私が犠牲になればって勝手に考えた。残される側のこと、いつも考えてない……ごめんなさい…」
「だからァ…!」
「銀時の護ろうとした“茜”を、私が殺そうとした…!銀時の護りたいもの護るとか、言ったくせに…バカだよね…」
茜の声は、最初こそ大きかったが、段々と小さくなっていき、最終的に涙を流し出した。そうだ、俺は昔からこいつの泣き顔が苦手で仕方なかった。泣いてる現場に居合わせようものなら、そそくさとその場から逃げ出し、声を掛けてやる訳でもなく笑顔になるのを待ったのだ。そのくせ、高杉の野郎が茜の泣いている側に寄り添っていることを知った時、理由もなくモヤモヤとし、イライラした。高杉やヅラより俺との方がガキの頃から知ってんのに、俺に頼らないその姿を、俺は嫌いなのかもしれないとさえ思っていた。でも、戦場に出る前には必ず心配になり、俺が護ると柄にもなく言った。
何だかんだで茜を可愛い弟と認識し、弟を取られることに嫉妬していたんだろう。
実際は“妹”だったみたいだけども。
「あーもーなんで泣くんだよ、泣きたいの、俺だってのに…」
「ごめ、ぎんっ…ごめんなさい……ぎんとき、ごめんなさいっ」
「もう分かったから。お願いだから泣き止んでくんねェ?ほら、よーしよし、銀さんが慰めてやるからなー」
「…っ、ぎん…、」
左手を掴んでいた手を離して、頭をポンポンと撫でてやる。泣いていた茜は、驚いた様に俺を見る瞳を見開いた。とりあえず、撫で続ける。
そこで、ふと、疑問に思ったことをまだ聞いていないことに気付いた。
「つか、結局お前って女なの?」
「え、あ……うん、そうだよ」
「昔から?」
「え、産まれた時から…?」
別に知らない間に男から女になっては訳ではない様だ。つか、ヅラが昔からとか言ってたっけ。アイツの戯言ではなかったらしい。
じっと茜の顔を見てみる。どっからどう見ても、女。それもとびきりの。俺の中の茜の姿を思い出す。この間まで忘れてたなんてツッコミは聞こえない。一番小さい頃の茜の姿は、まだまだガキだったし、連れてきたアイツが弟だと紹介したから、男だと思った。なんだかなよなよとした、女みてェな男だな、と。それ以降は、どんなに鍛えても細いまんまで変だとは思ったが、男だとずっと思い込んでいた。
よくよく考えれば、細くスラリとした手足なんざ女の特徴そのものじゃねェか。
「私、小さい頃は身体が弱くてね」
茜が口を開いた。
もう泣いている様子はなく、何か懐かしんでいる様に微笑む。
「兄上が、おまじないだよ、って」
「おまじない?」
「うん。男の子として生きて、大人になるまで上手く生きられたら、もう身体は丈夫だし、ずっと元気でいられるよ、って」
「はァ…?」
よく分からん。
だが、とりあえず理由があって女だけど男として生きてたっつーのは分かった。師匠が全ての差し金だったということを分かった。
もう大人だし女の格好してるっつう訳か。
「よく分かんねェけど、分かっ――」
「おい、銀時。茜の様子はどうなんだ……おっと、邪魔をしたか?」
突然、ガラリと襖が開いた。現れたのはヅラで、何やら意味の分からないことを言って襖を閉めようとしたので、一体何を、と確認しようと茜を見る。茜も同じタイミングで俺を見た。バチリと目が合って、あ、と二人揃って声が漏れた。
「ちが…!!小太郎!ちょ、違うの!!」
「ヅラてめェコノヤロー。いいとこなんだから邪魔すんじゃねェよ」
「は!?バカ銀時!!何言ってるの!?信じらんない!!」
茜はさっきまで大人しかったのが嘘の様にゲシゲシと力強く抵抗を始め、俺の下からスルリと抜け出た。出ていこうとするヅラを引き留め、ソファーで懐かしむ様に会話を始める茜を、ぼんやりと見る。
何でだか、ちょっと空しい気分になったが、理由も分からず、ふらりと二人の会話に混ざる。
20160304
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