二人の距離を見る

「新八、姉御、今日は泊めてほしいアル」


神楽ちゃんが、突然僕の家にやってきた。
銀さんに今日はこっちに泊まれと言われたらしい。茜さんが目を覚まし、喜んでいた所で、大人の事情、とか言われたんだと。
茜さんが目を覚ましたことを喜べばいいのか、追い出されたことを憤ればいいのか分からないらしい神楽ちゃんは、形容しがたい顔をしてご飯を食べていた。茜さんを知らない姉上は、不思議そうに首を傾げていたから、説明しようと思って、ふと気付いた。僕は、彼女について何も知らない。多分神楽ちゃんも、詳しいことは何も知らない。
茜さんも、僕らのことを名前くらいしか知らないだろう。僕に姉上がいることも、神楽ちゃんが地球人でないことも、知りはしないのだ。
それなのに、茜さんは命懸けで僕らを助けてくれた。どうしてなのか、未だに理解が出来ない。
もぐもぐと夕飯を食べきった神楽ちゃんが、ふと口を開いた。


「茜姉は万事屋の依頼人アル」
「あら、そうなの?」
「それで、私と新八の命の恩人ネ」
「まあ…」


命、その単語に姉上は驚いた様に声を上げた。神楽ちゃんの言葉通りだから否定しようもないが、今回は別に見て分かる怪我をしている訳でもないから、なるべく突っ込まれずに終わらせたい。


「ああああ!!それと、銀さんの知り合いっぽかったかなァ!!」


あまりにも不自然な会話への混ざり方だというのは自分でもよく分かっている。だから、出来れば何も言わないでほしい。変なモノを見る目で僕を見る神楽ちゃんの視線を無視して、僕の感想を述べた。

そう、茜さんと、銀さん。
二人が何か会話をしたのはほんの少しだ。茜さんが万事屋へ依頼に来た日にはそんな空気、微塵も感じさせなかったけれど、一連の事件での発言を聞いていると、茜さんは銀さんを知っていて、倒れた茜さんを心配する銀さんも、僕らに対するものとは違う、何か特別な感情を抱いていた。
そういえば、茜さんは大切なヒト、とかそんなことを言っていた。あの状況で指す相手は確実に銀さんなんだろう。茜さんみたいな素敵な人が、あんなちゃらんぽらんを大切だと思っているのか。少し疑問だ。


「今度、姉御と茜姉と三人で女子会するネ!」
「あら、それはいいわね」


少し考え込んでいる間に、二人は随分と話を進めていた様だ。来る日を思い浮かべ、二人で楽しそうに笑うので、変に口を出すことも出来ず、渇いた笑みを浮かべることでその場を乗り切ることしか出来なかった。



*



「改めてまして、茜です。宜しくお願いします」


次の日、家で神楽ちゃんに朝食を食べさせて万事屋へ行くと、銀さんのご飯を準備してくれていたらしい茜さんが、僕らに気付いて、丁寧にお辞儀をしてくれた。銀さんは寝惚けた顔で襖からズルズルと這い出していて、起きたばかりなのは明白だった。
茜さんの姿を確認した神楽ちゃんは、勢い良く茜さんへ抱き付いていった。
神楽ちゃんを抱き留め、茜さんはふわりと笑った。
ズルズルと歩いていた銀さんが僕らの横を通り過ぎ、洗面所へ消えて行くのを視線で見送りながら、茜さんは暫く万事屋に身を置くことになったと報告をしてきた。


「仕事を見付けるまでのつもりですけどね」
「茜姉、此処に住むアルか!」
「それは仕事を見付けてから決めようと思ってるの」


嬉しそうな神楽ちゃんとは対照的に僕は驚くことしか出来なかった。大体、この部屋には事務所以外には一部屋しかない。銀さんの寝ている部屋だ。神楽ちゃんは押し入れでドラえもん状態だが、茜さんはどこで寝るんだ。ソファーか。廊下か。
まさか、あんなちゃらんぽらんと同じ屋根の下、同室で寝泊まりする気なのか。


「いやいやいや!流石にそれは止めた方がいいですよ!」
「え?何を?」
「何アルか新八。茜姉と寝れないからって嫉妬か、見苦しい」
「違うわ!!茜さんは銀さんのぐうたらっぷりを知らないから……」
「それこそいやいやいや、だぞォ、新八ー。茜は昔馴染みだ。問題ねェよ」
「銀さん……」
「あ、銀時、やっと起きた。朝ごはん、片付けだってしたいんだから早く食べて」


問題なくねェだろ、とツッコむより先に、茜さんが銀さんをチャカチャカと動かしソファーに座らせた。手際よく朝食を机に並べ、茜さんは銀さんの隣へ座った。


「新八くん、心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫です。銀時が私を変な目で見ることなんて有り得ないですから」
「そうだぞォ、その通りだァ」
「食べながら喋らない」
「……はい」


茜さんは銀さんを注意して、笑っていた。でも、僕には、“有り得ない”、そう言った時の茜さんの表情が何だか悲しそうに見えて、その通りだと銀さん本人の口から聞いて、傷付いている様に見えた。それでも直ぐに表情を明るい笑顔に戻した茜さんは、銀さんを幸せそうな目で見ているのだ。


――ああ、やっぱ、カッコイイや


船上で聞いた、戦う銀さんに対する茜さんの言葉。その時も、彼女は幸せそうに笑っていた。

きっと、二人は僕らには分からない複雑な関係で、茜さんの気持ちも複雑なモノなんだろう。それは二人が話してくれるまで、変に探らずにおくべきなんだ。
朝食を食べながらも、楽しそうな銀さんを見ながら、僕はそんなことを思っていた。





20160315


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