やって来た依頼人は

ーーピンポーン


気持ち良く寝ていたところで、チャイムが鳴った。新聞の勧誘か、家賃の催促か、はたまた依頼人か。
最後のは大事だけれど、どうもまだ寝ていたい気分だ。


「新八ぃ、神楽ぁ、代わりに出てくれー」


居間に向かって声を上げるが、返事がない。おーい。もう一度呼んでみたけど、やっぱり答えはない。


ーーピンポーン


また、チャイムが鳴った。
仕方ない、と布団から起き上がって居間への襖を開く。
案の定、其処には誰もいなかった。ボーッと頭を掻きながら、昨日の夜を思い出す。そういや、いい肉があるからっつって、お妙が神楽も連れて行ったんだっけか。
何で俺は招待されないんだと、今更愚痴っても笑って流されるだけなんだろう。


ーーピンポーン


「はいはい、新聞の勧誘ならお断りだよォ、っと」


どすどすと、あまり軽快ではない音を出して歩きながら、玄関へ向かう。
玄関のガラス戸から見えるシルエットは、女だ。新聞の勧誘、ではない、はず。これで可愛い子に新聞取ってとか言われたら断り辛いからホントにやめてほしい。


「はいはい、どちらさん?」


ガラッと音を立てながら、玄関開けると、其処にはやはりと言うか女が居た。
第一印象は、美人。こんな女になら騙されてもいいと思う程に。街を歩けば、10人中10人が振り向く程に。
薄茶色の髪を緩く結んだその女は、俺の顔を見て、少し驚いた顔をした後、笑った。ふわりと、華が咲く様に。何故だか懐かしい気持ちになって、思わず今ならナンパでも使わなそうな“何処かで会いましたか”が口から出そうになった。


「此方は万事屋さんで、あっていますか?」


変に間を空けそうになった俺に対し、聞いてきた。
声は、鈴を転がした様だと形容すればいいのか、兎に角、綺麗な声だ。
これ程の女は、人生で一人出会えるかどうかだ。


「おう、あってますよォ。万事屋に依頼か?」
「はい、探して欲しい人がいるんです」
「人探しね、まぁ、まず中入って」
「お邪魔します」


ペコリと頭を下げ、女は入ってきた。
普段なら馬鹿丁寧だな、と軽口の一つも叩きたいところだが、その仕草一つとって見ても、綺麗だと思えるんだから、目の前のこの女は本当に凄い。先導をしながら、ちらりと女の顔を確認する。さっきは何処かで会った様な気もしたが、言い方は悪いがこんなに上等な女、一度会っていれば男としては忘れられない。だから、恐らく気のせいだろう。


「悪ィな、いつも茶淹れる奴が丁度いなくてよ」


ソファに座らせて、適当に冷蔵庫を漁りながら言うと、女は小さく首を振った。ニコニコと笑いながら俺を行動を見ている。何やら気まずい雰囲気にも感じるが、とりあえず何か出すモノを探す。どんなに探しても俺のイチゴ牛乳しかない。仕方ない、これを出すか。
パックを手に、足で冷蔵庫を閉めながら、もう片手でコップを掴む。
クスクスと聞こえてきた笑いにそっちを見ると、女が可笑しそうに笑っていた。


「んだよ」
「いえ、すいません。ちょっとおかしくて…」


テーブルにコップを置き、イチゴ牛乳を注ぐ。そういやこれ、俺がいつもラッパ飲みしてるわ。まあ目の前の女がそれを知っているわけでもないから、今回はなかったことにする。大体、飲むもんがないんだからしゃーないんだよ。
女がコップに手を伸ばしたのに、どうしようもない罪悪感を感じながらも心の中で必死に言い訳をする。
コクリ、と一口ピンクの液体が喉を鳴らした。


「えっと……あの…?」


困った様に、女が声を出した。


「私の顔、何か付いてますか…?」
「ん?いや、特に?」
「えっと…じゃあ、そんなに見られると…流石に恥ずかしいです…」


手の中でコップを転がしながらも、女は頬を赤く染めていた。
何その反応。これ、初対面だけど期待したいやつ。いやいや、初対面の男にガン見されたらそりゃ困るよな。あれは困ってるんだよ、そういう反応だよ、何一人で期待してんの俺、恥ずかしいわ、童貞かよ。


「悪ィ悪ィ、お姉さんみたいな人が誰探してんのか気になって」


口からは咄嗟に考えた言い訳が出てくる。咄嗟にしては上手く話を反らせた。
女はコップから手を離し、真剣な顔になって俺を真っ直ぐに見てくる。
さっき、笑った顔も見たことがあると感じたが、この眼差しにも既視感。
ナンパでもしろと神様が言ってんのか。


「私……私の仲間を、家族を探して欲しいんです」
「家族…?」


俺の言葉に、コクリと頷いた。どっからどう見ても幸福に生きてきた様にしか見えないこの女は、家族がいないのか。俺から離れた視線には、寂しさが見て取れた。家族を懐かしむ悲しさがありありと表れていた。


「おめぇ…」
「銀さん、起きてますかー?」
「銀ちゃん、お土産アル!……あれ?銀ちゃん、何してるネ!!そんな綺麗なお姉さん連れ込んでケガラワシイ!!!お姉さん!!銀ちゃんから離れるネ!襲われるヨ!」
「は!?ちょ、誤解…!!!」


事情を聞く直前で、バタバタと帰ってきた二人がドタバタのまま騒ぐ。
お陰で少しシリアスだった空気も全て吹っ飛んだし、女はぱちくりと目を瞬かせて二人を見てから、笑った。さっきまでの悲しみも寂しさも全て消えて、笑った。


「ちょっと銀さん何処でこんな美人見付けてきたんですか?」
「何処でも何も依頼だよ!!!万事屋に!依頼!!!」
「銀ちゃん、誤魔化さなくていいアル。これからヨロシクしたいならちゃんと言ってくれれば新八と出掛けるヨ」
「人の話を聞けぇぇぇ!!!」

「ふふふっ」


話を聞こうとしない二人と騒いでいると、目の前から笑い声。
神楽も新八も、黙って声のする方を見た。俺たち三人からの視線に気付きながらも、女は相変わらず楽しそうに笑っていた。


「ごめ、ごめんなさい、笑っちゃうなんて、ふふ、でも、可笑しくて…」
「笑っても綺麗ネ、お姉さん!私、神楽アル!お姉さんは?」
「神楽ちゃんね、宜しく。私は、茜です」


宜しく、と再び言い、頭を下げた女ーー改めて、茜は、神楽に向かって綺麗な笑顔を向けた。
ーー茜
久々に現れた依頼人は、辛くも、最近夢を見た、かつての仲間と同じ名前だった。





20160209


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