酔ってなくても
「お花見に行きませんか?」
朝食の片付けをしていたら、新八くんがやってきて、突然の提案をしてきた。神楽ちゃんはきゃっほい、と嬉しそうにハシャイでいる。銀時は読んでいたジャンプを見ながら、横目で新八くんを見ていた。お皿を全てシンクに一旦置いて、ソファーへ戻る。
確かに、最近桜が満開になっているし、お花見には良いタイミングだろう。だが、新八くんが言うには、彼のお姉さんと一緒ならしいではないか。家族水入らずの予定だったのではないだろうか。それに、私は彼のお姉さんを知らない。神楽ちゃんや銀時の反応を見る限り、二人はどうやら知り合いの様なので、私だけ全くの他人で、気まずくなったりしないだろうか。
「姉上は皆も一緒に、って張り切ってお弁当作ってますよ」
「でも…いいんですか?」
「茜さんとも会いたがってました!是非、一緒に来て下さい!」
「何、遠慮してんだよ、茜。呼ばれてンだから有り難く花見と行こうぜ」
「……うん、そうだね。…じゃあ、是非、一緒に行かせて下さい」
「やったァァァァ!茜姉、お弁当作ってアル!」
新八くんへ返事をすると、神楽ちゃんがピョンピョンと飛び跳ねた。お弁当は新八くんのお姉さんが作ってくれているという話だったけれど、作るべきなんだろうか。首を傾げながら新八くんを見ると、何故か必死に頷いている。
「え、っと……?じゃあ、簡単なモノで良ければ作るね?」
「俺、団子ね、団子。すげェ甘いやつ」
「団子って……銀時、糖尿病なんでしょ?大丈夫?」
「違いますー。まだ予備軍ですー。だから大丈夫なんですー」
「んー、まあいっか。折角のお花見だもんね。急いで作るね」
「じゃあ、僕は一旦家に戻りますね!公園の入り口で待ち合わせましょう!」
新八くんは、立ち上がってそそくさと出て行った。私も台所へと向かい、まずはお皿を洗ってしまわないといけない。お弁当を作れる程、材料はあっただろうか。それに団子も。ああ、お弁当箱はあるんだろうか。沢山の人が食べられる様に重箱が一番だけど、そんなモノが万事屋にあるとは思えない。とりあえず色々な棚を開けてみるが、それらしいモノは見当たらない。
「銀時、重箱とかある?」
「あー?重箱?ねェだろ」
「そっか…ならお弁当も団子も作れないね…」
「神楽ァァァァ!重箱買ってこいィィィ!!」
財布を神楽ちゃんへ渡し、銀時は凄い勢いでおつかいを頼んだ。それに対して、神楽ちゃんも凄い真剣な顔で万事屋から走り出て行った。何とも素晴らしい連帯感だ。そんなに団子が食べたいのか。仕方ないからちゃんと作ってあげよう。
*
「銀さんー!神楽ちゃんー!茜さんー!こっちですー!」
「銀ちゃん、新八いたヨ!」
待ち合わせの公園入り口で、新八くんが手を振ってくれたのに神楽ちゃんが気付いた。神楽ちゃんは駆け足で新八くんへ向かって行く。新八くんの隣には、笑顔の綺麗な女の人が立っていた。彼のお姉さんだろうか。凄く美人。
「銀時、あの人が?」
「あ?ああ、そうだ。ありャア、志村妙っつーメスゴリラだ」
「メスゴリラ!?銀時、目大丈夫!?あんな美人に失礼すぎるよ!?」
軽率な銀時の発言に驚いて銀時を見ると、普段通り耳をぐりぐりとほじりながら怠けた目をしていた。何て失礼なんだと、つい持っていた重箱を銀時の顔面に押し付けてやった。ぐえっと情けない声を上げた銀時に対して重箱の手を離すと、彼は慌てて重箱を守った。それを見てから神楽ちゃんの後を追い、銀時を置いて新八くんの元へ行く。
「お待たせしました、行きましょう」
「銀さんは…?」
「放っておいても大丈夫ですよ」
心配そうに銀時を見る新八くんを無視して、行くように促す。
ちらりと、新八くんの隣を見ると、笑顔のままペコリと頭を下げられたので、慌てて私も頭を下げる。
「初めまして、志村妙です」
「初めまして、茜です。新八くんにお姉さんがいると今日聞いたので、直ぐに挨拶に伺えなくて申し訳ございません」
「いいのよ、私こそごめんなさい。新ちゃんからお話は聞いてるわ。今日は楽しみましょう!」
お妙さんは、笑顔で言ってくれた。美人だし、性格も良いし、こんな素敵な方をメスゴリラとか、ホントに銀時は何を言っているんだ。
「銀時が随分迷惑掛けていると思います。すいません」
「あらあら、そんなの銀さん本人に謝らせればいいのよ。茜さんは気にしないで」
「これからは迷惑お掛けしないように重々言っておきます…」
お妙さんの反応を見る限り、つまり銀時は何度か迷惑を掛けているのだ。まさか粗相を働いてなどいないだろうかと、母親になった様な気分だ。
神楽ちゃんとお妙さんが二人で楽しそうに会話を始めたので、一歩後ろを歩きながらお妙さんを見る。銀時とは、どういう関係なんだろう。不躾にも関わらず、私はそれが気になってしまった。
銀時は昔から美人が好きだ。そして、ドSだ。好きな人には結構ひどい事を言って困らせたり泣かせたりするのを好む性質だ。にも関わらず照れ屋でツンデレで、少しめんどくさい性格だ。あんな美人に対してメスゴリラとか、つまりそれって照れ隠しなのではないかとか、私の頭の中ではグルグルと嫌な想像が駆け巡る。でも、もしそうでも、私には、関係ない。私は銀時と只の幼馴染みで、仲間で、それだけの関係だから。例え、私が銀時へどんな感情を向けても、銀時が応えてくれなくても、それは、仕方ないことなんだ。
「…でもなぁ…」
何だかちょっと悔しい、と思ってしまったのは、この瞬間だけの気持ちとして、今日はお花見を楽しまないと。
20160317
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