酔ったふりして

「ハーイ、お弁当ですよー」


お花見の場所に蓙を広げ、皆で円になって座る。お妙が持ってきていたお弁当を円の中心に出してくれた。茜の作った弁当をとりあえず脇に置いて、向かいに座っているお妙を見る。


「ワリーな、オイ。姉弟水入らず」
「いいのよ〜。二人で花見なんてしても寂しいもの。ねェ、新ちゃん?」
「……二人?」


俺の隣に座っていた茜が不思議そうに首を傾げた。そうか、コイツは新八んトコの事は何も知らねェんだ。先に話しておけば良かった。


「ええ、お父上が健在の頃はよく三人、桜の下でハジけたものだわ〜。さっ、お食べになって!」
「じゃ、遠慮なく…」


お妙が笑顔で言うモンだから、不躾に聞けなくなったらしい茜は、大人しく隣に座ったままじっとお妙を見ていた。
俺は勧められた弁当の蓋を迷わず開ける。神楽も一緒に覗き込んでくる。さてさて、一体何を作ってくれたんだか。
期待して開けた蓋の下には、謎の黒い物体。
思わず神楽と二人、顎に手を添え考える典型的なポーズを取ってしまう。


「なんですかコレは?アート?」
「私、卵焼きしかつくれないの〜」
「“卵焼き”じゃねーだろコレは“焼けた卵”だよ」
「卵が焼けていればそれがどんな状態だろーと卵焼きよ」
「違うよ、コレは卵焼きじゃなくてかわいそうな卵だよ」


俺の知ってる卵焼きは断じてこんな黒い物体ではない。毎朝茜が作ってくれる卵焼きと、このダークマターを同物質だなどと思いたくない。引きぎみに弁当を見ている俺の隣で、茜がいそいそと箸を用意し始めた。待て待て待て。コイツ、食う気か?このダークマターを?こんなん食う為に花見に来た訳じゃねェだろ?俺はもっと、こう、団子食って酒飲んでハジける花見を想像してたわけで、腹の中から弾けたい訳ではない。


「ちょっと待てって茜……」
「いいから男はだまって食えや!!」


茜を止めようとしたはずなのに、前から奇襲された。お妙が、本人曰く“卵焼き”を素手で掴んで俺の口にぶちこんで来やがった。つか、仮にも料理だと主張するならば、素手で掴むなよ、等と言える筈もなく、口の中でモサモサでパサパサで焦げの味しかしない謎の物体が暴れまわるのを、耐えるしか出来ない。


「これを食べないと私は死ぬんだ…これを食べないと私は死ぬんだ…」
「暗示かけてまで食わんでいいわ!!止めときなって!僕のように眼が悪くなるよ」
「…いただきます」


騒がしい神楽と新八を横に、茜が静かに呟いた。手に持った箸を“卵焼き”に伸ばすのを止めようとするが、未だに口の中に残ったダークマターのせいか、身体の動きが鈍い。俺が苦しんでいる隣で、無情にも茜は口の中へダークマターを入れてしまった。


「吐け!まだ間に合う!!」
「銀時、失礼よ」


どうにか吐かせようとガクガクと肩を揺さぶっていると、茜が静かな声で言った。その声は、小さかったのに、綺麗に響いた。


「お妙さんが心を込めて作ってくれた料理なのよ?ちゃんと、美味しいわ」


もぐもぐ、と咀嚼を開始した茜を、お妙がキラキラとした眼で見ているのが分かった。
一体どこのイケメンだ。どこの男前だ。なんで平気で食ってんだ。なんで平気で喉を通してんだ。なんで笑顔なんだ。
そういや、コイツ、昔っからやたらと男前だった。コイツに惚れた女を俺は沢山知っている。ついでに、男前さに惚れた男も。


「銀さんには勿体無いくらい素敵な人ね…」
「あ?」
「けほっ…!?」


何とか腹の中にダークマターを取り込みきったところで、お妙が呟いた。思わず変な返答をした俺に対して、茜は驚いたのかむせ始めた。
あーあーあー。仕方ねェヤツだ。水を渡して、背中を擦ってやると、申し訳なさそうに頭を下げた。ゆっくりと水を飲むのを見守っていると、お妙がふふっ、と笑うのが聞こえた。何、笑ってやがる。前に視線を戻すと、やっぱりと言うか、何やら可笑しそうに笑っていた。


「二人とも、長年連れ添った夫婦みたい」
「バカ言うな、只の昔馴染みだっつうの」
「ホントですよ、お妙さん。銀時とは、只の、幼馴染みなだけです」


コイツ、“只の”強調しやがった。
すげぇ綺麗な笑顔で言いやがった。俺も確かに言ったけど、言われるとちょっとムカつくモンだな。


「あら、それなら新ちゃんにもワンチャンあるわね」
「姉上ェェェ!?」


新八が眼鏡を割らんばかりの勢いでお妙の名前を叫んだ。顔は馬鹿正直に赤くなっている。何だコイツ。茜に惚れたのか。

――モヤリ。

何故だか胸の中に違和感を感じて、でもそれの正体が分からずに、俺は新八を見る。
新八の様子に嬉しそうに笑う茜にも理由も分からずにモヤモヤとした。





20160930


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