意外とドジっ子
茜は、依頼の話もそこそこに神楽の話し相手になっていた。ほぼ一方的に話す神楽に、笑いながら相槌を打っている。たまに神楽から質問があり、笑顔のままに茜が答える、を何度も繰り返していた。その二人の会話から分かったのは、茜が江戸に来たばかりだということ。探してるのは天パで髪が長くてギラギラした目をした、男、だということ。家族なんだから男でも問題ないかと思った矢先に、家族みたいに大事な仲間、だという話を聞き、さっきまでナンパしろと言っていた神様を恨んだ。
「あれ、茜姉、左手どうしたアルか?」
いつの間にか、姉になっている。
「左手…?ああ、ちょっと怪我をしちゃったの」
茜の言葉も、神楽に対しては大分打ち解けたのか丁寧語ではなくなっていた。
神楽が指した左手には、手首に包帯が巻かれていた。恥ずかしそうに笑うから、ドジでもしたのだろうか。
「怪我……茜姉に傷が残ったら大変ネ」
「大丈夫、心配してくれてありがとう」
神楽との会話で分かったことがまた一つ増えた。
俺の隣で新八が茜を気にしながらも、声を掛けられずにいるようだ。これだから童貞は。綺麗なお姉さんとは恥ずかしくて話せないのかよ。
「神楽ちゃん、ごめんね、そろそろ帰らなきゃいけないの」
唐突に、茜がそう言った。時計を見ると、そろそろ夕方、というところだ。買い物でも行くのか。神楽はあからさまに残念そうな顔になったが、また来るから、と笑う茜に一気に元気になった。
茜が神楽の方を向いていた身体を俺の方へと向け直した。新八の身体が一瞬で固まる。
「すいません、万事屋さん。依頼に来たのに話が全然出来なくて。また直ぐに来ますので、その時詳しく話をさせて下さい」
「おォ、こっちこそ馬鹿娘の相手になってもらって悪かったな」
「いえ、楽しかったです。では、また」
ペコリと、来た時同様に丁寧なお辞儀をし、茜は部屋を出ていった。神楽が後ろをついて行ったから、玄関まで見送りに行ったのだろう。随分な懐きっぷりだ。そのお陰で依頼の内容くらいしか分からないし、一体何を手掛かりに探していいかも分からない。茜の依頼に関しちゃ、完全にお手上げ状態だ。
とりあえず、天パでロン毛でギラギラ系男子を探すことにでもするか。
神楽が戻ってきたのを確認してから、ソファーから立ち上がる。
「あれ、銀さん?どうしたんですか?」
「銀ちゃん、まさかストーカーするつもりアルか!?」
「違ぇよバカがおめーっ!ふらっと情報収集だ!!」
「……飲み過ぎないで下さいよ」
「は!?飲むわけねェだろ!お前、もう少し銀さん信用しろよ!!」
ジトリと見てくる新八に、言うだけ言って出掛ける準備をする。
後ろから、どうせ飲むだろ、と呟く新八の声が聞こえるが、聞こえないフリだ。
まあ、情報収集なんざ居酒屋が一番な訳で、話を聞く為に何杯か飲むことになるのは仕方ないことだ。
ガラリと玄関を開け、外を見る。丁度階段を上ってこようとするヅラを見付けて、勢い良く蹴り落とした。
*
今日も、かつての同志に仲間になってもらおうと、奴の住み処に向かう。すれ違う人に顔を見られぬ様に注意しながら、目的地を目指す。
ふざけた看板が目に入ったところで、一度足を止め、ソレを見上げる。ふと、万事屋から出てきて階段を下りてくる女の存在に気付いた。薄い茶色の髪を揺らしながら歩いてくる。下を見ているから顔ははっきり見えない。だが、見覚えがある。じっと見ていると、視線に気付いたのか、女が顔を上げた。
目が合う。ぱちくりと瞬きを数度した後、女は俺に対して軽く頭を下げた。
「……、茜……」
無意識に口から出た言葉に反応したのか、女は驚いた様な顔で俺を見てきた。
暫し視線を合わせていたが、女はふわりと笑った後、俺の横を通りすぎて行った。
「――――」
聞こえるか、聞こえないかの声量で女が何か言った。耳に入ってから理解するまでに暫し時間が掛かったが、気付いて振り返ると、そこにはもう女の姿はなかった。
20160212
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