心配すんぞ
撃たれた、とそう思った瞬間、思わず目を閉じた。本来なら男の僕が率先して身代わりになるべきなのに、まさか女の人にそれをやらせてしまい、しかも無意味な行動にしてしまうなんて、何て情けないんだと、頭の中で自分を諌める声がグルグルと回る。
「…なっ!このアマ!!」
男の焦った声が聞こえたところでゆっくりと目を開けたから、一体どうしてそうなったのか、僕には分からなかった。
あんな至近距離で撃たれたはずの茜さんが怪我一つなくて、手に何処から出したのか小太刀を一本持っていた理由が、僕にも、驚いている神楽ちゃんにも、分からない。ただ、茜さんが撃たれてなくて、無事だというその事実だけが分かった。
「ほォ、この人数相手にやろうってか」
「いえ、二人を無傷で家に帰してくれるなら、何もしませんよ」
「誰が帰すかっ!」
男が怒りながら銃を構え直した。発砲音と同時に、小太刀を払う。キンッと金属音が聞こえたと思ったら、銃弾が床に当たった。
嘘でしょ、まさか、小太刀で跳ね返したの。
混乱する僕を他所に、茜さんは僕と神楽ちゃんの背を押す。逃げろと言われているんだ。
「茜姉!私も戦うアル!」
「いいから!万事屋さん連れて直ぐに追い掛けるから!」
「何で…何で茜さんが戦うんですか、僕らより先に逃げて下さい!」
「いいからっ!!」
ドンッと勢い良く押されて、思わずふらついた。神楽ちゃんは茜さんの方を見ながらも、自分がどうするべきか悩んでいる様だった。茜さんの周りには男達が囲い始めていて、助けに行こうとするけど、僕の方に向かってくる奴らの攻撃をかわすことで精一杯になる。直ぐに神楽ちゃんも同じ様な状況になった。進もうにも、引こうにも数が多い。無関係な人が沢山いる中で全てを倒していくわけにもいかず、少しずつ離れていく茜さんを必死に目で追った。
「姉ちゃん、中々度胸あるじゃねぇか。守られてりゃいいものをよ」
「あら、そう?」
小太刀を振るいながら、茜さんは余裕の顔で男と話していた。
何で、あの人が戦ってるんだ。何で、僕らの為に。何で。
分からないことだらけで、でも武器を持っていない僕は、茜さんを助けることも出来ずに、直ぐに男の一人に腕を取られた。
「新八を離すネ!!」
神楽ちゃんが僕の方へと傘を振り回しながら走ってきた。神楽ちゃんと男達が縺れ合う様に戦う中で、一人の男が神楽ちゃんに布を当てた。瞬間に、神楽ちゃんの身体から力が抜ける。
「神楽ちゃんっ……!!」
「…っ!?」
僕の声に反応して、茜さんがこっちを向いた。余所見をした隙を狙って、一人の男が茜さんを力強く殴る。
「茜さ…っ!?」
名前を呼ぼうとして、僕を抑えていた奴も何かの布を口に当ててきた。意識が飛びそうになる。ふわりふわり、頭の中が白くなっていこうとするところで、後ろの男が吹っ飛んだ。
「新八くん!大丈夫!?」
茜さん。
呼ぼうとしたけれど、声が出ない。薄れる意識の中で見えた茜さんは、何ヵ所にも傷を負っていた。僕のせいだと思った。多分、僕らの置いていけば、この人は簡単に逃げられたのに。
何でだ。何で。知り合ったばかりの僕らの為に、何でこの人は傷だらけなんだ。
「な、んで…」
「そんなの、簡単よ」
掠れて出た声に、優しく返事がきた。僕の前に立ち、神楽ちゃんの方を気にしながらも、茜さんは大勢の男を見据えて、凛と、綺麗な声で、言った。
「大切な人の大切なモノを守るのに、理由なんていらないでしょ」
その言葉を最後に、僕の意識は途切れた。
20160213
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