もとどおり


体育館から、お兄ちゃんの叫び声。6人で強い方が強い。徹くんと同じコートに立ち、同じ目標を持つお兄ちゃんだから言えた言葉なんだろう。どんなに勉強をしたって、私には掛けられなかった言葉だろう。


「…いい、なぁ…」


羨ましい。ずるい。
でも、これで二人がまた一緒に頑張れるのかと思うと、それ以上に嬉しい。さて、徹くんのドリンクボトルを洗って明日に備えよう。明日の練習試合はきっと徹くんの、みんなのかっこいいプレイが見れるだろうから、ドリンクもタオルもしっかり準備して、北一の皆を支えないと。


「じゃあ、影山くん、明日ね!」
「ん」


もぐもぐと頬っぺたいっぱいにおにぎりを食べる影山くんに別れを告げ、水場へと向かう。さっき洗ったボトルはそのままあって、あれも片付けなきゃな、って頭を過る。
蛇口を捻ると、冷たい水が出る。ボトルの中を濯いで水を捨てて。何回か繰り返していると、後ろから足音と、最近聞きたくて聞けなかった大好きな声。


「光儚ちゃん!」
「……徹、くん」
「ごめんね、俺のドリンク!」


走ってきた徹くんは後ろからぎゅっと私を抱き締めた。まさかの展開に持っていたドリンクボトルを落とす。カランと響く音に、徹くんが反応して更に腕に力を入れた。徹くんをよしよしとしようと思ったけど、手が濡れているし徹くんに冷たい思いをさせてしまう。どうしよう。とりあえず、私の頭にぐりぐりと頭を押し付けて嬉しそうにしている徹くんをほどかない様に、ドリンクボトルを拾って、籠に入れる。数はピッタリ。チームのみんなと同じ数。


「光儚ちゃん、」
「どうしたの?」
「好き、大好き、結婚して」
「徹くんがお兄ちゃんよりも格好良くなったらね」


徹くんは大分いつも通りに戻ったみたいで、良かった。私もいつも通りに返事をしてみれば、後ろから岩ちゃんに勝てないー、って悔しそうな声。昔から冗談でもこうやって私に好きって言い続けてくれる徹くんに、私は心を持っていかれたわけだけど、徹くんはそんなこと気付いていないんだろう。
徹くんを背中にくっつけたまま、ドリンクボトルを入れた籠を持ち、部室に向かおうと歩き始めると、徹くんに籠を奪われた。


「徹くん!?」
「重いでしょ?手伝うよ!」
「全然重くないよ、徹くんこそ練習後で疲れてるでしょ」
「女の子に荷物持たせて俺だけ手ぶらとかないでしょ」


マネージャーの仕事なのに。
徹くんの手から籠を取り返そうとするけど、徹くんの身長で手を上に伸ばされたら届かない。
徹くんひどい。私をひらひらとかわしながら、徹くんは空いている方の手で私の手を掴んだ。


「はい、捕まえたっ」
「あ!」
「ドリンクしまったら、次は?」
「あ、っと…タオルの準備だけ…」


徹くんに聞かれたからつい素直に答えると、徹くんがじゃあ部室だねって歩き出す。徹くんから籠を取るのを諦めてついて歩き始めると、徹くんはすごく嬉しそうに笑うから、まあいいか。徹くんは、岩ちゃんの悪口ってボゲッしかないよね、って言い出して、私はお兄ちゃんにそんなこと言われたことないから分かんなくて、首を捻っていると、徹くんに笑われた。


「光儚ちゃんは、岩ちゃんに怒られたりしないか」
「そうだね、あ、でもこの間怒られたよ?」
「え?珍しい、何で?」


部室に行く前に洗濯機に寄ったら、無事に脱水まで終了していて、洗い終わったタオルを籠に入れる。徹くんはそれも取ろうとするから、空いてる徹くんの手を私の手で塞いでみる。こうすれば、徹くんは諦めるから私がタオルの籠持てる。そのまま二人で部室まで行く間、話題になるのはやっぱりお兄ちゃん。今頃くしゃみでもしてるかも。
部室を開けて、籠を置いてから怒られた時のことを思い出す。あの時のお兄ちゃんは顔を赤くしながら怒ってた。


「お兄ちゃんのお風呂に侵入しようとして」
「っえ、いつ!?入ったの!?」
「入ってないよ。お兄ちゃんがね、流石にダメだ、って」


中学生になってすぐ?あれ、なる前かな?
思い出しながらタオルを一枚ずつ部室の簡易物干しに干していると、徹くんが私からタオル奪ってちょっとぷんぷんしながら、一気に干していく。その手際の良さにビックリしてると、お兄ちゃんが徹くんの荷物も私の荷物も持って部室にやってきて、徹くんがお兄ちゃんに向かってずるいずるいって騒ぎだした。





20141027
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