何よりも笑顔がいい


私にとっての初めての中総体は、お兄ちゃんや徹くんにとっての最後の中総体だった。危なげなく決勝まで進んだ北一の最後の相手は、強豪白鳥沢。お兄ちゃんの話だと、今まで対戦しても対戦しても1セットも獲れないで負けているらしい。試合開始直前、今年こそ、また徹くんが呟いた。


結果からすれば、今年こそという願いも虚しく白鳥沢に敗退、2位に終わった。でも今年初めてデュースの末に1セット獲れた。そして、徹くんは初めて大会でベストセッター賞を貰った。表彰式は、上からで表情まで見れなかったけど、きっと二人は泣いたと思う。私にはただ拍手を送ることしか出来なかったけど、表彰式後の徹くんはずっとにこにこと嬉しそうに笑っていたし、お兄ちゃんもそれを見て呆れているだけだったし、大丈夫なのかな、と勝手に思った。二人が引退した後の部活のことを思って、悲しくなった。明日の部活について話す監督の顔を見ながら、話は耳を通り抜けていた。

帰り道の間も、にこにこと嬉しそうな徹くんといつも通りのお兄ちゃんに挟まれ、何故か試合に出ていない私が一番泣きそうだった。絶対にお兄ちゃんの方が辛いのに、私が泣いちゃダメだと必死に我慢していたら、お兄ちゃんに頭をポンポンと撫でてくれた。そんなことされたら我慢出来なくなってしまう。せめて公道では泣きたくなくて、お兄ちゃんの手を振り払うけどお兄ちゃんは止めてくれなくて、流れそうになる涙を隠す為に、お兄ちゃんにしがみつく。お兄ちゃんは私を離すことなく、ずっと頭を撫で続けてくれた。


「光儚、部屋着いたぞ」
「…ありがと…」


お兄ちゃんがわざわざ私の部屋まで連れてきてくれたけど、お兄ちゃんから離れられなくて、お兄ちゃんは溜め息を吐いてから徹くんを連れて部屋に一緒に入る。お兄ちゃんがベッドに私を座らせる。


「光儚ちゃん、見て。俺初めてベストセッター賞貰ったの」


私の隣に座った徹くんが、カバンから貰った盾を出して私に見せた。お兄ちゃんから顔を離して、徹くんの方を見ると、徹くんは私の頭を撫でてくれた。すごいでしょ、って呟く徹くんに、声が出せなくてでもすごいって言いたくて必死に頭を縦に振った。


「すごっ……うん、す…ごいっ」
「…ごめんね、応援してくれたのに」


徹くんが盾を片手に、私を抱き寄せる。その手がすごく優しくて、涙が出た。とうとう溢れてしまったそれは、ぽろぽろと私の意思に反して流れ続ける。


「わたっ…し、ごめんっ…とお、るっくんの…ほう、がっ…つらいのに…っ」
「ううん、光儚ちゃんがそんなに泣いてくれる方が、嬉しいよ」


よしよし、って徹くんが子供をあやすように私の背中を一定のリズムでポンポンとする。お兄ちゃんが立ち上がって、私の頭を撫でた。徹くんに何か耳打ちして、部屋を出ていく。お兄ちゃんにもまだ謝ってなかったのに。思ったけど、身体は動かなくて、兎に角徹くんにぎゅっとしがみつくことしか出来ない。


「俺も岩ちゃんも来年、ウシワカぶっ飛ばすから。頑張ってもっと練習するからさ」


徹くんの声が真剣で、私の背中に回していた手を肩に置いた。徹くんがちょっと力を入れれば、私の身体は簡単に徹くんと距離を取る。いきなりなくなった温もりに寂しくなったけど、徹くんが私の名前を呼ぶから、顔を上げる。


「光儚ちゃんに、笑顔で頑張ってって言ってほしいな」
「徹くん…」
「俺、どんな光儚ちゃんでも好きだけど、やっぱり笑ってるのが一番可愛いと思うからさ」


ね、って徹くんは笑顔になる。
私はジャージの袖でぐしぐしと目を擦る。上から徹くんがあぁ、とか言ってるけど、涙を止める為なのだ。多分、止まっただろうというところで顔を上げる。


「徹くん」


徹くんの顔を見たら、徹くんは嬉しそうに笑った。


「私、ずっと徹くんの応援するからね!それに、来年こそ北一が優勝だもんっ」


お兄ちゃんと徹くんに出来なかった、北一の優勝を私のいる間にしてみせるのだ。もっともっと、選手を助けられる存在にならないと。





20141016
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