本日、勉強日和


3年生が部活を引退して、影山くんがセッターになった。環境は変わっていくが、私の目標は変わらない。北一を全国に出場させること。その為に私に出来るのは、もっとバレーを学んで、もっとマネージャー業に必要な知識を蓄えることだ。今まで分からないことは部活中でもお兄ちゃんに聞いていたが、これからはそれも出来ない。
お兄ちゃんや徹くんは高校でもバレーを続けるから、スポーツ推薦を狙いながら勉強をするらしい。家で二人で勉強をしている姿をよく見掛ける。声を掛ければ、疲れたー、って泣きついてくる徹くんと、真面目にやれ、って怒るお兄ちゃんは毎日の光景だ。


「おかえり、光儚ちゃん」


今日は帰ったらリビングから徹くんが顔を出した。リビングにいるなんて珍しい。徹くんは、岩ちゃんにパシられた、と言いながら、ペットボトルを2本持ってお兄ちゃんの部屋へと向かっていく。徹くんの後ろについてそのまま階段を上っていくと、徹くんが扉を開けた状態で私を待っていてくれて、私はカバンも持ったままお兄ちゃんの部屋に入る。
お兄ちゃんは部屋のテーブルの前でプリントとにらめっこしていた。テーブルの上には問題集と二人分のノート。


「お兄ちゃん、お疲れ?」
「ああ、光儚。おかえり」
「ただいまっ」


お兄ちゃんからのおかえりって久しぶりに聞いたかも。嬉しくて、お兄ちゃんの隣に腰を下ろすと、お兄ちゃんはプリントをテーブルにぽいって置いた。


「岩ちゃんひどくない!?俺をパシっておいて光儚ちゃんとイチャつくなんて!」
「パシってねぇだろ。問題どっちが解けるかで勝負するっつったのはお前だ。自業自得」
「イチャつく方はスルー!?」


そっちこそ否定してよ、って騒ぎながら徹くんはペットボトルをテーブルに置いて、座っていた場所に落ち着いて、自分のであろうノートを引き寄せた。どっちがどっちのノートか分かったところで、覗いてみる。数学だろう。私には分からない内容だった。流石に2年の差は大きい。いつか私もこの問題がすらすらと解ける様になるんだろうか。そんなの想像も出来ない。


「あー、何かやる気出ないー」
「真面目にやれ、グズ川」
「岩ちゃんが苛めるから頑張れないー」


助けて、って徹くんが私に手を伸ばしてくる。お兄ちゃんから離れて徹くんの方へ近付くと、徹くんが横から抱き着いてきた。私の頭にぐりぐりと自分の顔を押し付けている徹くんのノートを見てみると、下の方にミミズの跡のようなものが。徹くん、相当疲れてるんだろうな。転がっている徹くんのシャーペンを取って、ノートにちょっとした書き込みをしてみる。未だにぐりぐりしている徹くんのお陰でたまに身体が揺れて、文字が震える。


「徹くん、徹くん」
「なに、光儚ちゃん?」
「見て見て、ちょっと力作!」
「んー?」


徹くんのノートの端。
徹くんの似顔絵と私の似顔絵とがんばれの文字。ちょっと気を休められるならいいかなと思って書いてみた。徹くんはその落書きを見て、固まった。下手くそだったかな。俺はこんなに不細工じゃない、って言われたらどうしよう。


「徹くん?似てないかな…?」


徹くんのリアクションが気になって、顔を覗いてみると、徹くんが思い切り抱き締めてきた。勢いなのか、いつもより力が強くてビックリした。


「徹くん!?」
「何これ超可愛いっ!俺、超頑張れる!」
「あ、…あ、うん、ありがと」


ぎゅーっと徹くんは私を抱き締めたまま、ノートへと向き直った。





20141125
(とおるくっ…そろそろ苦しっ…)
(おいクソ川、光儚離せっ!)
(いや!岩ちゃんには渡さない!)
(そうじゃねぇ!光儚が息出来ねぇだろ!)
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