マネージャーはじめました


北川第一中学に無事入学をして、私はお兄ちゃんを説得してバレー部のマネージャーになった。徹くんが私の味方をしてくれたおかげかもしれない。何だかんだでお兄ちゃんは徹くんの世話を焼いているから、駄々を捏ねる徹くんをいなすには私のマネージャー希望を了承するのが一番だと思ったのだろう。
中学でバレーをする二人は、久しぶりに見た。徹くんはたくさんファンがいるみたいで、体育館の扉の近くからキャーキャーと黄色い悲鳴が聞こえてくる。徹くんのファンが近付きたいが為にマネージャーに立候補することが多いという話を監督から聞いていたけれど、今やっと理解出来た。監督が仕事をきちんと出来るなら良いという条件を付けてのマネージャー認定だったから、必死にマネージャーの仕事を覚えた。少しでも選手の動きやすいように、少しでも支えられるように。少しでも、私がマネージャーになったら嬉しいと言ってくれた徹くんが、お兄ちゃんが引け目を負わないように。


「及川さん、トスのコツ教えて下さい」


同じ一年生の影山くんが、徹くんに声を掛けていた。キラキラとした瞳で徹くんを見る彼に、徹くんは微妙な顔をしながらも軽く何かを指導している。先輩らしい姿だ。初めて見る。


「マネージャーさん、タオルお願い」
「はいっ!今行きます!」


呼ばれて、そっちに駆け寄る。今は、徹くんを見ている場合ではなかった。仕事をしなくては。


「頑張ってるね、光儚ちゃん」
「ああ、問題なさそうで安心した」


徹くんとお兄ちゃんが何か話していたが、よく聞こえず、手を振ってくれる徹くんに対して軽く手を振り返して、頼まれた仕事に向かう。洗ったタオルを持ってきて、代わりに使い終わったタオルを持っていく。洗濯機を回している間に今日最後のドリンクを運んで、置いてあるであろう空のドリンクを回収してくる。ドリンクボトルを洗い終わる位のタイミングで、今日最後に試合形式の練習をするだろうから、先輩に教えてもらいながら色々覚えよう。


「よしっ!」


気合いを入れて、新しいタオルを運ぶ。


*


――バンッ


予定とは上手く行かないものだ。ドリンクボトルを洗い終わって、体育館に戻ったら、試合形式の練習は始まっていた。すいません、と謝りながらスコアボードの側までいくと、一年生の――確か国見くん、がいいよ、って試合から目を離さずに言った。国見くんの隣でスコアボードを見る。一軍対二軍の様だけど、今のところ一軍の圧勝。
徹くんから綺麗なトスが上がって、それをお兄ちゃんがスパイクする。ブロックを弾き飛ばして、お兄ちゃんのスパイクが決まった。二人ともキラキラしてる、格好良い。二人に見惚れていると、国見くんが、こっちに一点ね、と教えてくれた。国見くんに従って、一軍の点数を一枚捲る。


「バレーのルールは知ってる?」
「何となくなら…」
「まあ、分かんなかったら聞いて」
「ありがと…」


――バンッ


「…!?」
「ごめんごめん、国見ちゃんー」


滑った、なんて笑いながら徹くんが謝った。こっちに飛んできたボールを徹くんに投げ渡しながら大丈夫です、って国見くんが返事をして、お兄ちゃんが気を付けろボゲ、って徹くんを叩く。
徹くんは疲れてるのかな。上手な彼には珍しいミスだと思う。何事もなく練習が再開されたから、帰ってからでも体調を聞いてみよう。


「大丈夫、国見くん?」
「うん、……岩泉さん、大切にされてるんだね」
「え?」


国見くんが言っている意味が分からなくて首を傾げる。別にいいです、てそっぽを向いてしまって更に訳が分からない。


「あ、国見くん…」
「なに?」
「光儚でいいよ。苗字じゃお兄ちゃんと被っちゃうから」
「…そうだね」


じゃあ光儚さんだね、と淡々と言った国見くんの横に、またしても勢いよくボールが飛んできた。何事かと思ってコートの方を見たら、お兄ちゃんが悪い、って謝りながらボールを取りに来る。ブロックを避けようと打ったスパイクがこっちに飛んできたみたいだ。大丈夫です、ってお兄ちゃんにボールを返す国見くん。一日に何度も流れ玉が飛んで来るんだから、私も気を付けなければ、と気合いを入れる横で、国見くんが小さく溜め息を吐いた。





20141004
(二人とも、多分わざとなのに気付かないんだ…)
(?大丈夫、国見くん?)
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