黄瀬に心配される


風邪を引いた。

久々に重たい風邪で、これはもう動けないレベルだ。昨日の涼太の言葉が私の中でぐるぐる回っていて、きっと知恵熱とかも出たんだと思う。考えすぎたんだ。
涼太はいつも私の欲しい言葉を知っているかの様にくれる。でも、そこにあるのは涼太の優しさだけだって知ってるし、そこに深い意味はないんだって分かっている。

でも、涼太の言葉が頭から離れない。


「涼太…」


呟いてみても、返事はない。
つい応えを期待していた自分が可笑しくて、笑ってしまう。涼太はお仕事中な筈だ。
涼太の笑顔を思い浮かべて、何だか妙に落ち着いて、急に意識が保てなくなってきた。
やってきた睡魔に身体を任せ、眠りに落ちることにする。笑っている涼太を思い浮かべて寝たら、涼太が夢に出てきてくれるだろうか。


*


ピカピカと光る携帯のランプに浮上しかけていた意識が一気に覚醒する。
黄色いランプ。涼太からのメールと着信にだけ設定した色だ。
メールかなと思って携帯を開くと、予想に反してやたらと多い不在着信。27件て。全部涼太からだからちょっと、いや、かなりビックリ。
メールも5件来ていてとりあえずそっちを確認する。


『光儚ー?大丈夫っすかー?』


何だこの軽い感じのメールは。
カチカチとボタンを弄り、すっかり寝てしまっていたことを書く。
送信ボタンを押して、一先ず携帯を置いて布団へ倒れ込む。よく寝たからか、大分体は軽くなった。明日は学校に行ける気がする。


――ピカッ


「うおっ!」


いきなり光った黄色いランプに可愛げもない声が出てしまった。
点滅し続けるランプは着信を告げていて、焦りながらも急いで通話ボタンを押す。


『光儚っち!?大丈夫っスか!?』
「涼太ー?おはよー」
『え、何その呑気な返事。心配した俺、バカみたいじゃないっスかー』
「え、心配してくれたの?涼太やさしー」


涼太の声を聞いた瞬間、会いたいと思っていたのが何故だか恥ずかしくなって、紛らわす様に軽い口調で話す。涼太は電話越しに溜め息を吐いた。呆れられたかな。


『朝、熱出たってメール来たときは焦ったんスよ…』
「あれ、私メール送った?」
『来たよ!全部平仮名で“ねつやばいしぬたすけて”って!俺、仕事中も心配してたのにっ!』


ぷんぷん、と可愛い声で怒る涼太に笑ってしまう。くすっと声が漏れたのが涼太に聞こえたのか、なに笑ってるの、ってまたぷんぷんする。


『ねぇ、光儚?動けるっスか?』
「ん、ちょっとくらいなら大丈夫だよ?」
『じゃあ、鍵開けて?』


鍵。
鍵?


「え、今、涼太何処?」
『光儚の家の前』
「……は!?」


慌てて窓から玄関先を覗いてみる。確かに、門の前に黄色い頭が見える。あれは高確率で涼太だ。もしかしたら近所に金髪の人が引っ越してきていて、挨拶に来たとか…はないな。
黄色いのが、タイミング良く顔を上げて、目が合った。手に持っているビニール袋をガサガサと振っている。


『お土産買ってきたっスよ!開けてー』
「ちょっ……ちょっと待ってて…!」


今すぐ玄関に行きたいところだが、如何せん私はパジャマだ。こんな姿を人前に晒す訳にはいかない。しかも寝るときノーブラ派の私はあるかないか分からない細やかな胸を布一枚で守っている状態である。さすがに無理。
わたわたとタンスから一番近場のスポーツブラとジャージ上下を引っ張り出して、寝汗をそのままに着替える。ちょっと汗臭いかな。制汗スプレーを吹き付けて、玄関までダッシュすると、ガチャガチャと鍵を開ける。涼太と目が合った。


「ゼリー、一緒に食べよ?」


へらっと笑って門を開けて入ってきた涼太に、さっきまで何とも思っていなかったはずなのに、やっぱり会いたかったなんて思ってしまって、これはきっと風邪の時によくある人肌恋しい的なやつなのだろうと無理矢理解釈して、涼太を部屋へと迎えた。





20141214
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