タイトル:無題


枕の近くでピロンピロンと鳴る携帯を開いて時間を確かめる。アラームが鳴っているのだから設定した時間で間違いないのだが、携帯を開きたいのだ。手探りで開いた画面を寝惚けた目で見れば、この間撮った三人で写る写真。真ん中で二人の腕を取り、笑う彼女とお揃いの待ち受け。俺と岩ちゃんは胸に卒業生の証である花を付けていて、ああやっぱり卒業したんだな、と思ってしまった。岩ちゃんとは同じ学校だし、お隣さん同士なのは変わらないのだけど、部活の時間を考えると会いに行き辛くなったのは間違いない。メールも送るけど、彼女はあまり携帯を弄らないのだろうから返事は少ない。現に、昨日送ったメールには未だに返事がない。まあ、おやすみ、とか部活頑張ってとか下らない内容な上に返事のしにくい内容だったけど。


「…っと、やば」


まだ入学はしていないが、卒業したから本格的に青葉城西の練習に参加しよう、と岩ちゃんと決めてまだ数日も経っていないのに遅刻するわけにはいかない。携帯を閉じて、枕元に戻して立ち上がる。ちゃちゃっとジャージに着替えて、荷物をカバンに詰めていると、携帯のライトが光った。
淡いピンクのライトを設定しているのは一人だけ。
持っていたタオルをカバンに慌てて突っ込んで携帯を掴んだ。


『おはよう。徹くんは今日もお兄ちゃんと一緒に朝練ですか?
練習、無理せず頑張って下さい』


彼女は、何故かメールだと敬語だ。慣れてないからかな。そんなところも可愛い。絵文字も顔文字もない白と黒だけのメールだけど、俺にとってはキラキラして見える。ささっと保護を掛けてから返事を考える。おはよう、頑張るね、あとは何を伝えよう。何て文字にすれば伝わるかな。応援してくれたらすごく頑張れる。でも、無理せずって言ってくれてるのに、すごく頑張るって逆に心配させるかも。カチカチと文字を打っては消し、打っては消しを繰り返す。うーん、唸りながら一旦携帯を閉じる。手の中で携帯を転がしていると、ピロンッピロンッと、突然携帯が鳴り出して、ビックリして携帯を落とし掛けた。ピロンッピロンッ。鳴り続けるから電話だろうか。慌てて携帯を開くと、着信。岩ちゃん。


「なーに、岩ちゃん」
『なーに、じゃねぇだろ!時間過ぎてんのにテメェ何してんだ!』
「え、……うわ、ごめんっ!すぐ出る!」


岩ちゃんに指摘されて時計を見ると、待ち合わせ時間を5分過ぎていた。急いで電話を切ってカバンを掴む。携帯をポケットにしまって部屋を出る。バタバタと足音を立ててしまったけど、誰も起きてくる様子はない。靴を履いて玄関扉を開けた瞬間、岩ちゃんが眉間に皺を寄せて門の前に立っているのが見えた。俺が出てきたのに気付いた岩ちゃんが、早くしろと視線で訴えてくる。鍵を締めて、岩ちゃんに駆け寄ると、岩ちゃんが手に持っていた小さなカバンを俺に向けてつき出してきた。


「ごめん、お待たせー。これ、なに?」
「お前にだ」
「岩ちゃんからプレゼント?うわ、遠慮するよ」
「ん、じゃあ渡さねえ。及川に渡してって、光儚が作ってた弁当」
「え!?先に言ってよ!俺のだよ、岩ちゃんには渡さないし!!」


岩ちゃんから弁当らしいカバンを引ったくる。中を覗いてみると、青色を基調にした、ちょっと可愛い水玉っぽい包み。昔、光儚ちゃんが使っていた弁当箱の包みと色違いだ。岩ちゃんが使っていたのを見たことがないから、新調したのだろうか。俺の為に準備してくれたのだったら嬉しすぎて叫びそう。
そういえば、メールの返事まだだった。ポケットから携帯を取り出して、未送信のメールを出す。さっきまで送る内容を悩んでいたのが嘘みたいに文字を打てる。


「…メールか?」
「うん、お礼とあと大好きだよ、って!」
「俺だったらそんな軽く言われたら信用しねぇ」
「え!?」


岩ちゃんの言葉が衝撃的すぎて、でも驚いたと同時に送信ボタンを押してしまった。





20150110
(『おはよう、光儚ちゃん!お弁当岩ちゃんから受け取ったよ!俺の分作ってくれてありがとう!いつも優しい光儚ちゃん、大好きだよ。練習頑張ってくるね!』)
ALICE+