危機感投下


「は?及川って彼女いないの?」


無事に高校に入学し、バレー部の同級生とは一緒にお昼を食べるまでの仲になった。
屋上に陣取ってわいわいと騒ぐ中で、マッキーがやっぱり恋ばなでしょって言い出して、マッキーから時計回りで浮いた話をしていく。俺の隣に座ってた岩ちゃんが、特にない、って言い切って俺の番だからってちょっと期待した目を向けてくる皆に、素直に彼女出来たことないって言ったら、マッキーがビックリして持っていたペットボトルの蓋を落としてた。


「及川絶対モテると思ったのになー」
「そりゃモテるよ及川さんイケメンだもん」
「うざっ。ウザ川うざっ」


岩ちゃんが声のトーンを変えず淡々と俺を貶す。その扱いはあまりにも酷いと思う。隣の岩ちゃんを睨むけど、岩ちゃんは俺なんて気にもしないでお弁当を食べてる。岩ちゃんが昔からずっと使ってる緑のストライプの包みに、それと似た柄の緑の弁当箱。今でも岩ちゃんのお弁当は光儚ちゃんが作っているのだろう。卵焼きをお弁当から奪うと、食べなれた味がしてついつい口が緩む。


「え、及川って岩泉が好きなの?」


マッキーの衝撃の一言。
マッキーを見てみると、俺と岩ちゃんを指差してひきつった笑顔を浮かべている。岩ちゃんが飲んでいたお茶を吹いた。一体どんな勘違いをしたらそうなるのか。いや、まあ、ある意味間違ってないけど。確かに俺は“岩泉”が好きだけど。


「岩ちゃんじゃないしっ!!何それ、キモい!」
「それは俺のセリフだボゲ!!」
「ほら、仲良し」


俺が岩ちゃん好きだとか想像したら背中がぞわわわってしてきた。マッキーが冗談、って笑っているけど、本気だったら頭おかしいと思う。大体、何で岩ちゃんだと思ったんだ。隣に座ってるからか。お弁当食べたからか。


「“じゃない”っつーことは、好きな人はいるわけか」


マッキーがニヤリと悪い笑みを浮かべた。嵌められたとは思わないけど、マッキーは聞き出す気満々な感じでずいずいと俺の方へ近付いてくる。マッキーから距離を取ってみると、岩ちゃんとぶつかった。岩ちゃんをちらりと見てみると、眉間に皺が寄る。ゴメンと謝っている間に、マッキーはすごく近くに来ていた。


「さてさて、白状しないか、及川クン」
「えー……」


隠すわけではない。俺のこの気持ちは疚しくないから。声を大にして俺は光儚ちゃんが好きだって叫んだっていいくらいだ。でも、目の前の結構恋愛経験を積んでいるであろう男のお眼鏡にかなってしまう可能性を考えると、どうにも踏ん切りがつかない。俺はなんて女々しいんだろう。こんなだから、常々、岩ちゃんよりかっこよくなったら、とか言われてしまうのか。いや、岩ちゃんだって恋愛に対しては奥手なはずだから、これについてはイーブンか。


「え、っと…及川?」
「マッキー、好きにならないでよ」
「は?え、何お前。それで渋ってんの?」
「当たり前でしょ!」
「だいじょーぶだって。ほら、俺を信じて」


にやにやと笑っているのは分かったけど、信じろと言っているのだから、仕方ない。俺はポケットにしまっていた携帯を取り出して、待受画面をマッキーに見せた。
携帯を覗き込んできたマッキーは、あれ、っと呟いたけど、直ぐににやりと笑った。


「岩泉と同じ待受」
「え!?岩ちゃんも待受にしてるの!?やめて、付き合ってると思われるじゃん!!」
「誰も思わねぇだろ、ボゲェ!」


すぱん。岩ちゃんの掌が俺の頭を叩いた。小気味良い音がした。


「光儚が勝手に設定したんだよ。変える訳にもいかないだろうが」
「言い方っ!それじゃ岩ちゃんと光儚ちゃんが付き合ってるみたいじゃん!」


マッキーから携帯を取り戻してポケットにしまう。今すぐ岩ちゃんの携帯を奪って待受画面変えたいけど、光儚ちゃんが嬉しそうに設定していたのかと思うと可愛くて、俺が勝手に違う画像を設定してショックを受けるかと思うとかわいそうで、とてつもなく微妙な気分である。


「岩泉の妹だろ?結構可愛いじゃん」
「え?」
「そんな可愛いなら、今はもう彼氏いたりすんじゃねぇの?」


マッキーはあっさりと、それはもうあっさりと。爆弾を俺と岩ちゃんに投下した。





20150128
(え、彼…氏、とか……え?)
(中2だろ?部活のやつとかクラスのやつとか…)
(光儚ちゃんに限って彼氏とか……マッキー、冗談キツいよ)
(ありえるだろ?モテる及川さんが好きになるくらいだからよ)
ALICE+