ほんの細やかな出来事
「明日は8時集合。以上、解散!」
監督の言葉を受け、部員が挨拶をしたのが聞こえた。明日の練習試合は、うちの体育館でやるから、しっかりと明日の用意をしなければ。さっき取り込んだタオルを畳めば、明日の最初に使う分は足りるはずだし、ドリンクボトルも部室で乾かせば問題ない。ドリンクの粉がそろそろ無くなりかけていた様な気がするから、確認しておこう。あとは、テーピングも最近結構使っていた気がする。どうせなら、今日買い揃えてしまおう。救急箱の中身を確認して必要なモノをメモする。
「光儚さん?今日買い物行くの?」
「国見くん!うん、明日の為に揃えておこうと思って!」
「ふーん……ついて行ってもいい?」
「うん?いいけど?」
別に私はいいのだが、国見くんは明日の試合に備えるべきだと思う。でも、国見くんから言い出したのだし、問題はないのかな。頭がこんがらがってきたので、国見くんを見ると、行く気満々で片付けをしているし、それならば一緒に行こう。
「国見くんは、買い物あるの?」
「テーピング、自分でやるのにオススメなの教えてもらおうと思って」
「そっか。私で良ければアドバイスさせてもらいます!」
急いで荷物を片付けて、準備万端になっている国見くんへ近付く。私もまだあまり上手ではないテーピングなのにアドバイスなんて大それたこと、出来るだろうか。
国見くんと歩きながら話すのは、バレーの話ばかり。
実際、国見くんとは部活の時しか話さないけれど、部活中の少しやる気のなさそうな印象とは違って、本当にバレーが好きなんだと分かる。熱を入れている様子は見えないけど、でも楽しそうにバレーの話をする。
「国見くんは、バレー好きなんだね」
「そりゃ…まあそれなりに」
「それなり?ふふっ、そっか」
口では素直に認めないのが、お兄ちゃんや徹くんとは違って、国見くんらしくて思わず笑みが溢れる。国見くんは何も言わない。
些細な話をしながら歩いていると、目的のお店に着いた。まずは、迷わず買えるドリンクの粉からにしようと買い物カゴを手に取ると、国見くんにすかさず引ったくられた。
「国見くん…!?」
「流石に、荷物持たせてたら俺が気まずいから」
ほら、買い物続けて、って淡々と言う国見くんに、ありがたくカゴを持って貰って、普段使っているドリンク粉を取る。数種類混ぜて作るから、結構な量と重さになるかもしれない。国見くんをちらりと見ると、しれっとした顔で棚を見ている。流石、男の子だ。細身に見えるのに、筋力はちゃんとあるんだ。
次に、部活で使う分のテーピングを選ぶ。なくなり始めていたサイズのテーピングを選び、必要なモノを選んでいく。国見くんは、色々なテーピングを吟味していた。
「私はこのメーカーのテーピングが最初だといいと思うよ」
「ふぅん。やっぱり違うもんなの?」
「うん、ちょっとずつ違うよ」
私の感覚だけどね、と付け足すと、じゃあこれにしよう、って国見くんは私のオススメしたテーピングを手に取った。
これ以上買うものはないので、レジに並んで会計をする。結局、荷物も分かれ道までは国見くんが持ってくれるみたいで、何度もお礼を言った。
*
「あ、これ、徹くんに似合いそう…こっちはお兄ちゃんっぽいかな」
買い物帰りの道で、可愛い小物屋さんを見付けた。国見くんをちらりと見ると、興味はなさそうで、そうだ早く帰らなきゃいけないし、こんな所に寄る訳にはいかないもんね。小物屋さんへ寄っていた足を通りへ戻す。
「ごめん、国見く……」
「いいよ、見てきなよ。俺、待ってるからさ」
「えっ…」
「ほら、早くしなよ」
グイグイと背中を押され、国見くんに申し訳ないけれど、ありがたく思いながら小物屋さんへ入る。さっき見付けたストラップを一つずつ。あと、私の好きな色合いのモノを一つ。
レジに向かう途中で、水色と緑の淡い色合いのミサンガを見付けた。それも一つ手に取り、レジのお姉さんへ差し出す。
全て小袋に分けて貰い、全部に目印を付けてもらう。急いで会計を済ませて、外へ出ると何処か遠くを見ながらぼーっとしている国見くんがいた。
「ごめんねっ、お待たせ!」
「早かったね」
「お礼に、はい、これ。国見くんに似合うと思って」
さっき見付けたミサンガの入った袋を渡す。首を傾げながらもそれを受け取ってくれた国見くんは、訝しげな目で中を覗いていて、その様子に思わず笑ってしまった。
「今日は付き合ってくれてありがとう!」
「俺が勝手についてきただけなのに…」
「でも、楽しく買い物出来たから。ありがとう、国見くん」
国見くんが私に釣られる様に、ほんのりと笑顔になった。
少し歩けば直ぐに帰り道は分かれるから、早々に買い物袋を国見くんから受け取り、お別れをする。明日、頑張ってね、応援するから、そう言って手を振って、帰り道を歩く。
お兄ちゃんは家にいるだろうか。徹くんは流石にいないだろうけど、次に会ったら今日買ったストラップをあげよう。三人でお揃いだよ、って。お兄ちゃんは文句言うかもしれないけど、徹くんはきっと喜んでくれる。
早く、会いたいな。
るんるんと、私の足取りは軽い。
*
「……光儚、ちゃん?」
ガヤガヤと少し賑わいのある通りに、小さな声が溶けていく。
相手に届かず、流されていく音など気にもせずに、ただ瞬きを繰り返す事しか出来なかった。
20150213
(及川、どうした?)
(………)
(体調悪いのか?この世の終わりみたいな顔してんぞ?)
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