正反対の表情


帰ってきたら、お兄ちゃんはまだいないみたいで鞄の中に入ったストラップを思って少し残念な気持ちになった。早く渡したかったのに。お母さんに聞いたら、買い物に行っていて、少し遅れるそうだ。荷物を部屋に置いて、お風呂に入ってしまおう。お兄ちゃんが帰ってきたら一緒にご飯食べたいし。


「お兄ちゃん、喜んでくれるかなぁ…」


自分の分のストラップを携帯にぶら下げて、お兄ちゃんと徹くんの分の袋を見る。
次のオフの日に、徹くんを家に呼んでもらおう。私はなるべく早く帰ってきて、徹くんにこれをあげて、携帯に付けてもらって。いつもみたいに、ありがとうって笑顔をくれるだろうか。
ウキウキとした気分でお風呂を目指す。久しぶりにお兄ちゃんの部屋でゆっくりとしたい気もするけど、明日は試合だから早く寝ないといけない。


「……ふぅ…」


兎に角、早く帰ってこないかなぁ。



*



少し様子のおかしい及川を引き摺る様な形で、用事を済ませた花巻と別れ、家の前まで連れてきた。何を聞いても、何でもない、としか言わないコイツはどう見ても何でもなくないのだが、本人が話すつもりもないのら仕方ない。無理に聞いても機嫌を損ねるだけで、こうなったウザ川は光儚と話して機嫌を戻すのが手っ取り早いわけだ。俺の家の前だと気付いた及川が、ピクリと反応した。


「寄ってくか?」
「……」
「流石に光儚も帰ってると思うし、最近会えなくてしょげてたぞ」


そう言えば、普段の及川なら一気に笑顔になって、俺も会いたい等と叫びながら家に入って行くはずだ。

はずだった。
やっぱり今日の及川は何かがおかしい。光儚の名前にピクリと反応はしたが、視線をキョロキョロとさ迷わせた。


「……っ、俺、……今日は止めとく!」


叫ぶや否や、及川は自分の家の門まで走り、ドタバタと家の中に入って行ってしまった。
やっぱりおかしい。
明日になれば戻るものなのか、全く分からない。
だが、俺が悩んでも仕方ない。何でもないと言うのだから、本人の問題だ。及川のことは暫く放っておこう。
家の玄関を開けると、丁度タイミング良く風呂上がりだったのだろう光儚が、濡れた髪をタオルで乾かしながら歩いていて、俺を見付けた瞬間に、勢い良く走り寄ってきた。


「お兄ちゃん!おかえり!」
「おぉ、ただいま」
「私、お兄ちゃんにプレゼントあるの!取ってくるね!」


バタバタ、と嵐の様に現れた光儚は嵐の様に自分の部屋へと向かって行った。
風呂上がりなら、及川を呼ばなくて良かったと心底思った。
アイツは、前に風呂上がりの光儚を見て、俺の部屋で俺の目を気にすることなく全力でのたうち回っていたことがある。騒いでいた言葉は、「光儚ちゃん」と「可愛すぎる」以外聞き取れなかったし、むしろ聞きたくもないと思ったが。人の妹を変な目で見んじゃねぇよ。
あの時は気持ち悪い、って叩いたがアイツは何も気にしていなかった。

とりあえず、玄関からリビングへと移動すると、既に食卓は準備万端であり、少し驚いた。腹も減っていたので、荷物を邪魔にならない場所に置いて席に座る。階段の方からドタドタと足音が聞こえてきて、やけに機嫌の良い光儚が顔を出した。
手に持っている小袋を俺に渡して、隣の自分の席へと座った。


「お兄ちゃんっぽいな、って思って買ってきたの!私と徹くんの分も買ったから、皆でお揃いだよ!」


嬉しそうに笑う光儚を横目に袋を開けると赤系の色を基調としたストラップが入っていた。光儚の携帯には同じ形の薄いピンク基調の淡いストラップがぶら下がっている。お揃いというのは本当の様だ。


「徹くんにも直接渡したいから、今度オフの日に家に来れるか確認してほしいな?」
「俺がか?直接メールしてみろよ」
「ちょっとサプライズで、来てからのお楽しみにしたいの!」
「ああ、……分かった、確認しとく」


サプライズなんてよく分からないが、本人がそうしたい様だからそれを尊重してやる。明日にでも及川に伝えればいいだけの話なのだから。
夕飯へ箸を伸ばし始めた光儚に倣い、箸を取る。
見える光儚の表情はやっぱり、ふわふわと嬉しそうな表情だった。





20150302
(明日は試合なんだ!お兄ちゃん達は朝から部活?)
(ん。)
(そっか……皆頑張ってるから、応援来て欲しかったけど、無理そうだね…)
(……今度、行けたら行く)
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