今日、二回


サーブ練習が終わったら、軽く休憩を取ってチームに分かれて試合形式の練習になった。レギュラー・準レギュラーを混ぜてくじ引きで決めたチームの様だったけど、流石レギュラー、即席メンバーでもきちんと連携していた。強豪校の名前は伊達ではない。スパイクを止められて悔しがるお兄ちゃんを、久しぶりに見た気がして、何だか嬉しくて笑ってしまった。
何回かチームをローテーションさせて試合をして、部活は終了した。試合の途中でお兄ちゃんが花巻さんと話していて、どうやら私が居ることに気付いた様だった。
口パクで多分『そこで待ってろ』と言っていたので、部活が終わっても私は観覧席を動かずお兄ちゃんからのアクションを待っている。


「光儚!」


何をすることもなく、体育館をただじっと見ていたら、下からお兄ちゃんの声が聞こえてきた。
手摺から下を覗き込むと、着替えを終えたお兄ちゃんが居て、もう帰る準備万端なので驚いた。


「あれ、お兄ちゃん?自主練は?いいの?」
「明日練習試合あるから今日は皆、なしだ」
「あ、そうなんだ!じゃあ下行くね!」


よく見れば体育館は完全に片付け終わってるし、無茶をしないようにきちんとしてるんだ。
下へ行く階段を降りながら、高校生の良いところをうちの部活にも応用出来ないか考える。圧倒的に練習時間が違うし、熱心な人とそうでない人の差も激しいけれど、身体を休めるという当たり前のことは出来る。部活再開の時に顧問に提案しよう。
階段を出た扉から、体育館へ行く扉へ移動する。扉は部活が終わったからか開け放たれていた。さっきまで熱気の凄かった場所が風が通って少し涼しくなっている。


「光儚、こっちだ」
「あ、妹ちゃんだ」
「花巻さんっ!」


お兄ちゃんの隣に花巻さんが居て、手を振ってくれた。そういえば、私、花巻さんにお礼をしたいと思っていたんだ。二人の側に駆け寄ると、お兄ちゃんが一瞬眉を寄せた気がした。


「花巻さん、さっきはありがとうございます。無事に上まで行けました」
「いえいえ」


時間を空けてしまったが、やっとお礼を言えた。満足してお兄ちゃんの隣に移動する。
お兄ちゃんと花巻さんは色んな人に挨拶をしながら帰るので、私もお辞儀だけはしながら歩いた。二人は他愛のない話をしていて、私は聞きながら相槌をしつつ周りを見渡した。
このまま、帰るのだろうか。徹くんが見当たらないのに。


「お兄ちゃん、あのさ……」
「ん?どうした?」
「あの……えっと…、とお…」
「及川くーん!お疲れ様ー!」


私の声を遮る様に、大きな声が聞こえた。女の人の声だ。
パタパタと足音も聞こえて、そっちを見てみると、私が探していた人が居て、知らない人と一緒だった。高校生になったんだし、友好関係なんて昔から全部知っているわけじゃないし、知らない人と一緒なんて別に気にすることではない筈なのに、女の人が彼の腕に自分の腕を絡めている姿を見て、すごく動揺してしまった。


「あ……」
「光儚、帰るぞ」


思わず漏れた声を掻き消す様に、お兄ちゃんが私の腕を取って足早に歩き出す。花巻さんが一歩遅れて後ろをついてきて、ちょっとだけ困った顔をしている。
ずんずん歩くお兄ちゃんは、へらへらと笑う徹くんの横を無表情で通り過ぎようとしていて、見ないようにと思っていたのに、私は徹くんへ視線を向けてしまった。
タイミングが良いのか悪いのか、徹くんもこっちを見た。
本日二度目。視線が合う。
徹くんの目が見開かれて、焦った様に腕にくっついてる女の人を剥がそうとしていた。
そんな徹くんを見ていたくなくて、視線を外す。お兄ちゃんの背中が、小さい頃の徹くんの背中に見えて、涙が出そうだった。


「……だから言ったのに」


花巻さんが後ろの方で何か言っていたけれど、意味が分からなくて私は聞こえないふりをした。





20150726
(かのじょ…、いたんだ…)
(そっか……そっ、かぁ…)
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