第三者の苦労
はっきり言って、昨日の何とも微妙な空気が今日に続いていたりしたら、俺は面と向かって面倒臭いと言うだろう。いい加減にしろと及川を殴るかもしれない。そう思って、学校へ向かった。
でも、朝イチで会った及川と岩泉のあんまりにも不穏な空気を見て、俺は口を開けなかった。口を開けなかったから、代わりにタックルをかました。うげっと呻き声を出した及川は普段通りの反応だった。
ちらりと岩泉を見ると、部室へ向かって歩き出した。俺と及川を置いて行くつもりらしい。その判断は俺も正しいと思う。
「及川、はよ」
「マッキー、おはよー」
「………大丈夫か?」
及川の返事は本当に普段通りで、昨日のことはなかったんじゃないかとさえ思える程だった。俺の言葉の意味を理解しているはずなのに、何も分からないという様子で首を傾げている。
「……お前ホントバカだな」
「は!?マッキー朝から何なの!?」
「あーあー朝から元気ですねー」
「マッキーが冷たいっ!」
騒がしい及川を引き摺る形で部室へと向かう。及川はブチブチと何かを呟いていたが、聞き取れる様なモノでもなかったので、放っておく。俺が何の反応もしないと分かったからか、及川は直ぐに口を閉じて、暫く視線をさまよわせだした。及川が自分できちんと歩く様になったところで、部室に着いた。もう着替え終わったらしい岩泉が出てきて、入れ違いに及川が入っていった。行こうとする岩泉を呼び止める。
「今日、作戦会議するぞ」
「は?」
「及川についてだよ。岩泉ん家行くからな」
「は!?」
「つーことで!」
言うことだけ言って部室へ入ると、岩泉はそれ以上何を言ってくることもなかった。
部室に入ったら、及川は携帯を見ていた。後ろから近付いてみると、携帯を弄っている訳でもないことが分かる。動かないでただ眺めているだけの及川の携帯をそっと後ろから覗いてみる。
待受画面から、動かない。
「及川」
「……っ!!あ、…マッキーか」
「相変わらずなんだな」
「…え?何が?」
俺の声に驚いたらしい及川は携帯をしまって着替え始めようとする。隠す様にした携帯を俺が見ているなんて気付いてないんだろう。及川に倣って俺も着替えを始める。
「マッキー、俺さー…」
及川が、小さな声で呟いた。
「どうしていいか分かんないんだけど…でもやっぱり、光儚ちゃんが好きなんだ…」
「…やっぱりお前バカだわ」
「うっ……うるさいなぁ!」
しんみりした顔を一瞬で崩し、及川は着替えを終わらせた。そのままそそくさと部室から出ていこうとするので、俺も急いで着替えを済ませ、及川を追い掛ける。
「及川」
及川がへらへら顔で振り向いた。悩んだり笑ったり、どうも情緒不安定な奴だ。
「マッキー、今日の岩ちゃんご機嫌ナナメだから、気を付けてね!」
「いや、あれはお前に対してだけだから」
「え!?何で!?」
及川は本気で驚いた様子で言ったが、体育館の中で準備をしている岩泉が見えたのか、そちらへ寄って行った。
へらへらと近付いて行った瞬間、思い切り殴られた。そりゃそうなるだろう。俺も岩泉と及川へ近付き、準備を手伝う。
準備が終われば直ぐに朝練が始まった。及川は変わらず笑っていて、岩泉は相変わらずイライラとしているけれど、部活に対して手を抜かず真剣な様子なのは流石だと思う。
*
「岩泉ー!」
部活終わりに花巻が近付いてきた。帰る方向は違うが俺についてくるということは、朝に言っていた作戦会議とやらは本気だったようだ。
俺と花巻より後方でいつも通り女子に絡まれて笑顔の及川を見る。結局、一日中態度を変えなかった。そんなアイツの為に何を話すのか、俺には理解出来ないが、花巻しか知らない事情があるのだろう。
「俺、岩泉の家行くの初めてだから緊張するわ」
「じゃあ、やめとくか?」
「いや、行くけど!?」
花巻は焦りながら俺の後ろをついてきた。
20151028
ALICE+