見付けた糸口
お兄ちゃんに迷惑を掛けてしまった。
別に体調だって悪くないし、本当はこんな時こそ笑っているところを見せなきゃいけないのに、身体は上手く動かなくて、笑おうにも上手く笑えなくて、どうしていいか分からないで、結局一日中部屋の中で過ごしてしまった。
布団の中で時間を潰すのも何だか申し訳なくて、気付いたら机に向かっていた。学校を一日休んでしまった罪悪感か、ただ気を紛らわせていたかっただけか。
兎に角ずっと机に向かっていたら、玄関が開く音が聞こえていた。ちらりと時計を見ると、もう夕方を過ぎていて、窓の外は暗かった。お兄ちゃんが帰ってきたんだろうか。
扉を空けて、階段下を覗いてみる。お兄ちゃんが上ってきたのが見えた。
「お兄ちゃん、おかえり!」
「ただいま、光儚。体調は大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「あ、妹ちゃん!お邪魔しますー」
「え、花巻さん!?」
お兄ちゃんの後ろからひょこりと顔を出した花巻さんに、驚いてしまった。今までお兄ちゃんは徹くん以外の友達を家に連れてきたことはなかったのに。
「ちょっと岩泉と作戦会議させてね?」
「作戦、会議?」
花巻さんの言葉に、意味が分からず首を傾げる。部活で何かしら考えているんだろうか。私が聞いてはいけない様な気がするから、お兄ちゃんと花巻さんが階段を上りきるのを邪魔しない様に見送り、自分の部屋へと戻った。
何だか、少し、寂しかった。
花巻さんのことは、あんまり知らないが良い人だと思っている。
でも、お兄ちゃんと一緒に何かするのは徹くんじゃないと嫌だと思ってしまった。
ポフン、とベッドへ座り込む。ちょうど手元にあった携帯を開くと、笑顔の徹くんが目に入ってきて、散々泣いてもう気持ちが落ち着いたと思っていたのに、また涙が出てきた。
*
「妹ちゃん、あれ、部屋着?」
「そうだ、けど?」
「あー、じゃあ、及川もあの格好見てたんだ」
花巻はうんうんと、何かを納得している様に頷いた。
何が言いたいんだ。
「あれは、俺でもヤバいから、及川には相当の刺激だろうな」
「はぁ!?」
コイツ、人の妹を何て目で見てやがる。
部屋着のパーカーとホットパンツというラフな格好で平気で人前に出る光儚にも問題があるかもしれないが、中学生相手に及川もコイツも何言ってんだ。
じとりと睨み付けると、花巻は苦笑しながらも謝ってきた。
部屋の中に適当に座った花巻が、真剣な顔になった。
「さてと…及川が奇行に走り出した原因を探るか…」
「何か知ってるんじゃねぇのか?」
花巻の言い方につい疑問をそのまま口に出してしまった。
花巻は暫く視線をさ迷わせてから溜め息を吐いた。
「もう遅いとは言ってた、かな」
「もう、遅い?」
「女と遊び始めた頃だったっけなぁ…妹ちゃんに勘違いされるぞ、って忠告したらさ、そう言ってた。言ってたっつうか、呟いてた?」
何だそれ。
花巻の言葉に訳が分からなくて混乱する。遊び始めた頃って言えば、初めて及川が光儚の誘いを断った時期か。そういや、帰り道に急に態度がおかしくなったのはその直前だったような。
「あの日……か?」
「あの日?何か心当たりあんの?」
「ほら、俺と及川でお前の買い物付き合った日。あの日の帰り、及川何か変だったんだよな」
「あー、…買い物中は普通じゃなかったか?」
「確か、帰る直前…?」
及川は、光儚の名前に過剰に反応して、逃げるように帰っていった。光儚は、俺と及川にお土産だとか言ってストラップ買ってきてて、そういやあれ、及川に結局渡せてないんだろう。俺の携帯にも光儚にもぶら下がったままのソレを光儚は時折寂しそうに眺めていた。
お土産ってことは、その日、光儚も買い物に行ってたんだろうか。深く気にしていなかったが、この辺りで中学生の光儚が行く買い物の範囲なんて限られている。俺達と光儚が行った場所が被っていたって何ら可笑しくはない。
「光儚呼んでくるわ」
「どうした、急に?」
「あの日、何かあったのかもしんねぇ」
花巻を部屋に残し、俺は光儚の部屋へ向かう。扉をノックすると、少し時間を空けて、光儚が部屋から顔を出してきた。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「ちょっといいか?」
「?うん、大丈夫だよ」
光儚を部屋から出し、俺の部屋へと連れていく。服装は相変わらずの部屋着だが、今は気にしている場合じゃない。
右手に握られている携帯の先で揺れるストラップを見つめ、俺はやっと光儚の悲しむ姿を見なくて済む様になるんだと確信していた。
20151117
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