解決への提起
お兄ちゃんの部屋へ入ると、少し難しそうな顔をした花巻さんが座っていて、お兄ちゃんは花巻さんの隣の方へと向かったので私は花巻さんの向かいに座った。
じっと私を見てくる二人に訳が分からないで首を傾げていると、お兄ちゃんが意を決した様に口を開いた。
「光儚、お前、あの日……あー、俺にストラップくれた日、買い物行ったのか?」
「うん、行ったよ」
何を改まって聞かれるのかと思ったら。予想外の質問に動揺してしまいそうになった。
お兄ちゃんと花巻さんは私の返答に何故か納得したように頷いている。何だ何だ。
「それがどうかしたの?」
「ちょっとな。もしかして誰かと一緒だった?」
「えっと、部活の備品買いに行くの、国見くんが付き合ってくれたけど?」
花巻さんが、国見くんって誰だ、と然り気無く呟いていたけれど、お兄ちゃんにその日のことを詳しく話すように言われて、必死に思い出すことにした。
確か、いつも行く用品店にドリンクの粉とテーピングを買いに行って、お店を出て直ぐの雑貨屋さんであのストラップを見付けて、あと、買い物に付き合ってくれたお礼に国見くんにもプレゼントあげて、その場で別れて帰った。
そんな感じだった様な気がする。
私の話を聞いていた花巻さんが、すっきりした顔になっていき、お兄ちゃんは何だかげんなりしていた。全く状況を理解していないのは私だけみたいだ。
「何かあったの?」
「いやいや、妹ちゃんは何も心配しなくて大丈夫だよ」
「ああ、光儚は何もしてないから大丈夫だ」
私が何か悪いことをしてしまったんだろうかと困っていたのを花巻さんとお兄ちゃんにフォローされた。やっぱりよく分からない。
「そーいやさ、妹ちゃん、その“国見くん”ってやつと付き合ってたりする?」
「え…!?そんなわけないじゃないですか!国見くんはうちの部活の大切な選手です!」
「それなら安心」
花巻さんがニコリと笑った。
その笑顔が何だか悪巧みを考えてる様に見えてしまって、無意識に身体を引いてしまった。
「俺が一肌脱いであげるから安心してね、妹ちゃん」
「え?え?」
「今週中には無事に解決だよ」
「え?何がですか?」
「ないしょ」
花巻さんの笑顔がやっぱり怖い気がしたけど、お兄ちゃんが何か口出す訳ではなかったので、信用して大丈夫なんだろう。
暫く三人でバレーについて話をしてから、花巻さんは帰ると言って立ち上がった。夕飯まで食べていけばいい、というお兄ちゃんに対して、それは悪いし早く計画立てなきゃ、と嬉々として言う花巻さんは、良い人だけれど、私の中ではよく分からない人、という位置付けになった。
「全部解決したら白状させるから岩泉も待っててな」
「おう、シバくから問題ない」
「ははは、やりすぎんなよ。じゃあ、妹ちゃん、またね!」
「はい、またお話しましょう!」
花巻さんを見送ってリビングへ向かう間、ちらりとお兄ちゃんを見ると、最近の不機嫌さがなくなった気がして、花巻さんとの作戦会議がなんだったのかは全く分からないけど、良い方向の話し合いだったんだということは分かった。
*
岩ちゃんにボコボコにされて痛む頭を撫でながら帰る途中、マッキーが岩ちゃんと一緒に歩いていて、どうやら岩ちゃんの家に向かっているんだということに気付いた。そこは今までは俺の定位置だったのに。俺の隣を歩くのは最近よく部活を見に来る女子で、ひたすら俺がバレー部の中で一番カッコいいと伝えている様だった。
――徹くんがお兄ちゃんより格好よくなったらね
俺が一番だって言わないあの声が、俺は聞きたいのに。
やっぱり好きだとマッキーに言ったら、バカだと言われた。マッキーには忠告されてたのに、結局こうなるなんてホントにバカだ。こんな俺の何処が一番なんだろう。絶対岩ちゃんに負けてるだろうに。それは前からか。マッキーにも負けてる。きっと、負けてる。
「及川くん、次の休みさ、」
「ゴメン、ちょっと予定あるんだ」
「え、そうなのぉ?残念ー」
あの時あの子を避けたときと同じ言葉。隣の女子にはさほどのダメージにもなっていない様だった。でもきっと、あの子は凄く傷付いてた。俺が傷付けた。青城で合った瞳は、辛そうだった。
女子と別れて家へ向かう。
岩ちゃんの部屋の電気が点いている。寄り道せずに帰ってきたみたいだ。
あそこに俺がいて、あの子が居て、そんな日がずっと前に感じる。
「ホント……俺はバカだ」
声に出してみて、よりそう感じた。
*
「及川、ちょっといいか?」
良くない気分を引き摺りながら登校して朝練を終えた俺に、マッキーが近付いてきた。
とっとと着替えて教室を目指していた俺を、マッキーが裏の方へ連れていこうとする。
え、なにこれ、マッキーからの告白?
ぱちくりと目を瞬かせながらマッキーを見ると、人気のない所でペイッと放られた。ヒドイ。
「マッキー、何すんの!」
「キモい顔でこっち見るな」
「ヒドイ!!」
マッキーはそんな失礼な事を言うために俺を連れ出したのか。何てこった。
「睨むな。
昨日さ、岩泉の家言って、妹ちゃんと話したんだけど」
「……なに」
「妹ちゃん、素直で可愛い子だよな。彼氏いないしいたことないって言ってたし、俺狙ってみようと思ってさ」
「は……なに、それ…」
マッキーは何を言ってるんだ。
狙ってみる?誰が、誰を?
「まだ中学生だろ?何も知らないことを俺が教えていくのも良いよな」
「マッ、キー」
「一応、妹ちゃん好きなお前にも言うだけ言ったからな。後で文句言われても困るからさ。じゃ、そんだけ」
マッキーは言いたいことだけ言って、去っていこうとする。
何だよ、それ。
人のことバカだとか言っておいて、何なんだよ。
「…マッキーでも許さないから」
呟いた声が聞こえたのか、マッキーは足を止めた。
振り向いたマッキーは、笑っていた。
「俺にそんなこと言われても知らねえよ。選ぶのは妹ちゃんだろ」
それだけ言って、マッキーは今度こそ去って行った。
一気に俺は、何を考えていいか分からなくなった。
20151119
(マッキーでも)
(国見ちゃんでも)
(飛雄でも)
(……岩ちゃんでも)
(それだけはやっぱり許せない)
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