もやもやでムカムカ
もやもやとは違う。
ただ無性にムカムカとしていた。
もし、光儚ちゃんが、マッキーと、いや、マッキーだけじゃない、もし俺以外の誰かと付き合ったとして、マッキー曰く、光儚ちゃんに彼氏はいたことないということだけど、出来たとして、兎に角誰かが光儚ちゃんと一緒に笑って、手を繋いで、デートして、触れていくなんて、それだけは絶対許せない。
確かに光儚ちゃんが選ぶんだ。光儚ちゃんが良いと思って全部を許したとしても、やっぱり俺はそれを許せない。光儚ちゃんのその判断を俺は許せない。
平日の今日、光儚ちゃんは普通に学校に行って、クラスの誰かと話すんだ。
今まで当たり前に存在していたその事実すら、今の俺にはイライラの起因になる。
そこに俺がいない。
光儚ちゃんの生活に、光儚ちゃんの中に、俺がいない。
「…むり……そんなの、むり」
どんなに頭を悩ませたって、どんなに振り切ろうとしたって、俺の中でその結論だけがグルグルと回っている。
授業中なのに駆け出したくなる気持ちを必死に抑えて、ただ、放課後になるのを待った。
朝からマッキーは俺に顔を見せることをせず、岩ちゃんが俺を見てドン引きしていて、クラスの皆が俺を遠巻きに見ていたとしても、俺には何も気にならなかった。
放課後、光儚ちゃんの所へ行く。
ただそれだけ。
部活は一日くらいどうとでもなる。コーチにも監督にも明日叱られればいい。
早く、早く。
昼休みを過ごして、午後の授業を受けて、俺の気持ちは逸っていた。
「今日はこれで終わりだ」
「じゃあ、また明日ねー」
HRの終わりを告げた先生の声と、クラスの女子が友達に別れを告げた声が聞こえた瞬間、俺は鞄をひっつかんだ。荷物は既に中に入れてある。
廊下に飛び出したら、遠くから岩ちゃんの俺を呼ぶ声が聞こえて、マッキーが俺を見て笑っていた気がした。
*
岩泉家に着いた時、丁度俺の母親と光儚ちゃんの母親が出掛ける準備をしていた。そういえば、今日は二人で女子会だと楽しみに話していた。
「あら、徹?部活は?」
「ちょっとね。ねえ、おばさん、光儚ちゃん居る?」
「ええ、居るわよ。部屋で勉強してたわ。暇なら教えてあげてよ」
いってくるね、と出掛けていく二人を見送り、心の中でおばさんに感謝する。光儚ちゃんの部屋へ行く大義名分をくれたのだ。俺が入るから、と鍵も掛けずに行ってくれたのも有難い。
玄関を開けて、中に入る。
後ろ手に鍵を掛けて階段に向かうと、上から扉を開く音が聞こえてきた。
「お母さん?忘れ物?」
上から顔を覗かせた光儚ちゃんは、俺の顔を見た瞬間に分かりやすい位に目を見開いた。
そんな光儚ちゃんに気付かない振りをして、階段を上っていく。
「徹、くん……?」
光儚ちゃんが、俺の顔を見ながら、俺の名前を呼ぶ。
光儚ちゃんの瞳の中には俺が映っている。
「突然どうしたの?あ、部屋入る?ちょっと待ってて、今勉強してて、」
声が少し固いのは、久しぶりに話すからか、それとも、俺と話すのが気まずい様なことがあるからか。
光儚ちゃんの後ろについて、部屋へ入る。
机の上には教科書とノートが置いてあって、勉強中だというのは本当の様だ。
「徹くん?どうしたの?」
光儚ちゃんが、俺の顔を覗いてきた。相変わらず、部屋着はモコモコパーカーでホント可愛い。部屋にいる時は大概この格好をしている。もしかして、マッキーとあった時もこの格好だったんだろうか。
――俺狙ってみようと思ってさ
マッキーの言葉が聞こえた。
プツンと、俺の中で何かが切れた音がした。
20151121
(真っ直ぐに俺の目を見る光儚ちゃんを)
(ベッドへ向けて押した)
ALICE+