見守るよりも行動


家には誰もいなかった。
扉を乱暴に閉めて、布団へ倒れ込む。

――やってしまった。

その言葉しか思い付かなかった。

光儚ちゃんに会って、どうするかなんて考えてはいなかったけど、でも本当はきちんと告白したかったんだ。いつもみたいな流れじゃなく、真面目にしっかりと俺の気持ちを伝えて、馬鹿なことをしたけど、だけど他の誰でもなく俺を選んで欲しいと、そう言うつもりだった。でも実際にしたことは、誠実さとはかけ離れていたし、何より光儚ちゃんを怖がらせて泣かせた。
色々とマッキーのせいだと言いたい所だが、それどころではない。

絶対に、嫌われた。

あんな真似をして、嫌われない方がおかしい。


「あああああ、さいあくっ!!」


枕をボフボフと叩き付けながら、叫ぶ。どうしていいか分からなくて、自分への怒りのぶつけ場所が分からない。
疲れて腕を止めるまで、周りに埃を巻き上げ続ける。


「はぁーはぁー……はぁ…」


溜め息を一つ吐いて、枕を放り投げる。
目を瞑れば、さっきの光儚ちゃんを直ぐに思い出せた。


「……不謹慎だよなぁ…」


凄く可愛かった、とか。
初めてのキス興奮した、とか。

思っちゃいけない感想を心の底に押し込めて、でもふわふわと俺の中に浮かんできて、葛藤を繰り返す。



*



及川が部活をサボった。
花巻がちょっと理由があるから、と適当な休み理由をでっちあげて監督に伝えていた。普段、しすぎな程に練習をしていたのが良かったのか、監督もコーチもあっさりと納得していた。
花巻を問い詰めても、宥められるだけだった。
明日は一日、練習試合を組んでいるのに、及川は何を考えているんだ。


「んだよ…」
「まあまあ、俺らは暫く見守るのみ」


花巻に肩を叩かれ、モヤモヤしながらも部活を始める。

スパイク、サーブ、レシーブ、順々にこなして、いつも誰より練習する奴の姿がないことが違和感でしかなかった。
やたら騒がしい声援がないことはありがたかったが、及川目当てで体育館に来たであろう女子が何かしら騒いでから出ていくのが迷惑で仕方ない。


「岩泉ー、明日は及川引き摺ってこいよー!」
「無論です」


先輩が冗談混じりに言ってくるのに返事をしながら、片付けを続ける。
帰り支度をしながら花巻を見ると、何やら携帯を気にしていた。多分、及川からの連絡を待っているんだろう。
ちらちら携帯を見ては肩を落とす、の繰り返しをしていた花巻を置いて部室を出た。
花巻も慌てて俺の後ろについてきた。手にはしっかりと携帯が収まっている。


「岩泉、途中まで一緒に行こうぜ」
「ああ」
「あー、」
「…どうした?」


歩き始めて直ぐ、花巻が声を上げた。あまりにも急な事に驚いて花巻を見ると、相変わらず携帯を気にしながらも、どうも気まずそうな顔をしていた。


「俺、何か嫌な予感がするんだよなー…先に謝っとく、ごめん」
「は?お前、何か謝るようなことしたのか?」
「いやぁ、岩泉には何もしてないけど…」
「んだよ、じゃあ謝んな」


花巻の言いたいことはよく分からないが、誰かを責める様なことは起こっていないし、責めようとも思わない。
大体、このタイミングで問題が起こるとしたら、それは及川関連だろうから、及川をシバけばいいだけの話だ。


「じゃあ、俺こっちだわ」
「おぅ、明日な」


ポツポツと下らない話をしながらも花巻とは別れる。
そのタイミングで携帯を見ると、母親からの女子会行ってきます、というメールが入っていた。
そういえばそんなことも言っていた。夕飯は光儚が準備すると朝張り切っていたような。
その時の様子を思い出して、笑みが漏れる。

暫く歩き、家が見えるところまで着いた時、リビングの電気が点いていないことに気付いた。この時間なら光儚がいないなんてあり得ない。まさか、部屋で寝ているとかそんなことあるのか。


「光儚?」


玄関に手を掛けると、鍵が開いていた。光儚は勿論、母親だって出掛ける時は毎回鍵を掛ける用心深いタイプだ。
単純に閉め忘れていただけならいいんだが、そんな気がしない。花巻の、嫌な予感がする、という言葉を、不意に思い出した。


「おい、光儚?」


階段を上がり、光儚の部屋の扉を開く。部屋にも電気が点いていなかった。本当に寝ているのだろうか。手探りで電気のスイッチを押すと、眩しいくらいの明かりが点く。さっと見渡せば、ベッドの上の布団が変に丸まっていた。
ベッドまで近付き、布団を撫でる。中からピクリと反応が返ってきた。


「光儚、ただいま。体調悪いのか?」
「ちがっ…!」


モフンっ、と勢いよく布団が捲れ、光儚が焦った様な顔をして出てきた。布団の中に籠っていたからか、顔が赤い。
俺の顔を確認した光儚は、一瞬、視線をそらした。


「お兄ちゃん、おかえりなさい。ごめん、ご飯急いで準備する…」
「何かあったのか?」
「……ううん、何にも…」


何にもにしては、笑顔がぎこちない。及川が部活サボった日にこうなるってことは、及川と会ったんだろうか。だが、仲直りしたなら名一杯の笑顔になるだろうし、まだ何か揉めているのか。


「明日、光儚、暇か?」
「え?…うん、勉強以外は…」
「そんなん俺が教えてやる。明日、うちの練習試合に朝から付き合え」


花巻には見守れと言われるかもしれないが、こんな状態をダラダラ続けているのは、俺には耐えられない。





20151204
(朝から…?)
(おう、一緒に出てくぞ)
(……何時起き?)
(6時)
ALICE+