ずっと大好き


結構強引なお兄ちゃんに付き合うことになり、丸一日を練習試合の応援に使うことになった。お母さんには、ちゃんと勉強するから、と必死に許しを貰い、出掛ける準備をする。ついでに心の準備も。

明日、嫌が応でも徹くんに会う。
それならば、ダラダラと長引かせたり、悩んだりするのは止めよう。ちゃんと応えると、決めたばかりだったんだから。
私の気持ちを、全部徹くんに伝えて、それであとは徹くんに任せよう。何であんなことしたのか、とか分からないことは考えたって仕様がないんだ。


「よしっ!がんばれ、私!」


スッキリした気持ちで、お兄ちゃん達を応援出来る様に、勇気を出すんだ。



*



一晩寝たら、心の準備はしっかり出来ていた。徹くんが好きだと言ってくれた服を着て、昨日準備した勉強道具を持つ。お弁当を準備して、お兄ちゃんが出掛けるのを待つ。つい今までの癖で沢山作ってしまったお弁当もしっかり持って、ジャージで玄関に向かったお兄ちゃんについていく。


「今日のは特製弁当だからね!」
「おお、さんきゅ」


お兄ちゃんの分だけ渡して、家から出ると、丁度良く徹くんも家から出てきた。家の前集合にしていたらそうなるのは当然だけれど、準備をしていた心が、何故かバクバクと激しく動き出した。


「岩ちゃん、おはよー」
「はよ、サボり川」
「うぐっ!」


お兄ちゃんに対しての笑顔を見ただけで、凄くドキドキしてしまうのは、久々に笑顔を見たからか、それとも。


「俺、先に行くから、及川は光儚連れてこいよ」
「はい!?」


じゃ、とさっさと歩き出したお兄ちゃんに、徹くんがつっこむがお兄ちゃんは聞こえていないのか振り向きもしない。
こんな強引なお兄ちゃんは、初めてだ。
徹くんが笑顔で固まったまま、私を見てきた。


「え、っと…光儚ちゃん、おはよ」
「おはよう、徹くん」


会話が続かない。
私が徹くんへ近付くと、徹くんはカクカクとした動きで歩き始めた。


「今日は練習試合なんだよね?」
「うぇ!?あ、うん、そうだよ」


変な声を上げた徹くんを見上げる。久々に、隣を歩いた。気付かなかったけど、少し身長が伸びてる。いつも見えてた徹くんとは、少し違っている。

バス停まで、徹くんとの会話は全然なかった。話そうにも、私が話し掛けては徹くんが奇声を上げ、一言返事をするだけで終わるのだ。どうしよう。どう切り出そう。
悩んでいると、バスが隣を走り去ってしまった。
お兄ちゃんはあれに乗ったんだろうか。次のバスで遅刻したりはしないだろうか。ちらりと徹くんを見ると、特に焦ってはいないみたいで、多分大丈夫なんだろうな、と勝手に解釈した。

バス停で足を止めて、今しかないと思った。徹くんの手を取ろうとして、でも小さく手が震えて、このままじゃ徹くんにバレちゃうから手を引っ込める。


「無理しなくていいよ、光儚ちゃん」


何度かそれを繰り返したところで、上から徹くんの声が聞こえてきた。見上げると、徹くんが真っ直ぐ私を見ていた。


「俺のこと、怖い?昨日、あんなことしたし、仕方ないよ」
「ちがう…、違うよ、徹くん…」


怖い、のかもしれない。身体はまだ怖がっているのかもしれない。でも、私の心は違うんだ。
意を決して、徹くんの手を取る。震える手に自分のもう片手を重ねて、必死に震えを止める。
徹くんは、驚いて私を見てた。


「わたし……私が怖いのは、徹くんがいなくなっちゃうこと」
「光儚ちゃん…?」
「私、ごめん、ずっと徹くんの優しさに甘えてた…」


好きだと言ってくれたら、きちんと応えるんだと、決めていた。だから、私は応えなければ。


「私、徹くんが好きだよ、大好き。ずっとずっと前から、大好き。だから、だから…」


続きの言葉が出る前に、徹くんに腕を引っ張られた。勢い良く徹くんの胸にぶつかる。私を引いた腕は、私の背中に回っていた。

痛い位に力強く、抱き締められていた。


「光儚ちゃん、ゴメン……俺も大好きだよ、光儚ちゃんが大好き」


徹くんの背中に、私の腕を回し返す。更に徹くんの腕に力が入った気がした。


「俺とずっと一緒にいて、ずっと、ずーっと」
「…私で、いいの?」
「光儚ちゃんじゃなきゃダメ。俺の全部、光儚ちゃんにあげるから」
「じゃあ、代わりに、私の全部、徹くんにあげるね」


力一杯徹くんに抱き付くと、徹くんの腕の力が少し緩んだと思ったら徹くんの手が私の肩に乗って、身体を離された。私は力一杯だったつもりだけど、あっさりと引き剥がされた。
少し寂しくなって徹くんの顔を見てみると、直ぐに分かるくらい真っ赤になっていた。


「徹くん、顔赤いよ」
「うるさいっ、見ないで!」
「徹くん、かわいい」


背伸びをして徹くんの頭を撫でようとすると、徹くんに逃げられた。かわいい、は嫌だったんだろうか。拗ねている様にしか見えなくて、やっぱりかわいいのに。


「情けないなー、俺…」
「どうして?」
「もっと格好良く光儚ちゃんに告白したかったのに、光儚ちゃんに先越されるし…」


流石岩ちゃんの妹、と呟いた徹くんに思わず笑ってしまった。
バスが近付いてきたから、徹くんの空いている手を取り、荷物を持ち直す。


「徹くんもお兄ちゃん位格好良くなれる様に頑張って」


目の前に止まったバスのステップへ踏み出すと、徹くんが後ろで笑った。


「まだ岩ちゃんに勝てないのかー」


言葉と裏腹に嬉しそうな徹くんの笑顔は、元の徹くんだった。私も嬉しくて、笑う。
バスの中では、今まで話せなかった分沢山、今日の天気からバレーまで、ずっと話し続けた。学校に着いて、徹くんがお兄ちゃんに怒られるまで、繋いだ手はそのまま、二人で笑いあった。





20151120
(お兄ちゃんも花巻さんも、迷惑掛けてごめんなさい)
(妹ちゃんは悪くないよ、悪いのは及川だから)
(そうだ、光儚は悪くない。グズ川が悪い)
(岩ちゃん、ひどい!マッキーも冷たいっ!!)
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