自覚をしました
「お兄ちゃん」
ノックして部屋に入ると、部屋の主であるお兄ちゃんと、徹くんが頭を付き合わせてうんうんと唸っていた。徹くん、やっぱりいたんだ。念の為にパジャマの上にカーディガン羽織っておいて良かった。ちっちゃい頃――幼稚園に入るより前――には、三人でお風呂だって入ったけれど、中学生で男女体格差が出てしまった今となっては、他人の徹くんとお風呂なんてもってのほか、パジャマ姿を見せるのですら恥ずかしい。ちなみにこの間、お兄ちゃんの入っているお風呂に侵入しようとして怒られた。
「あ、光儚ちゃんお風呂上がりー?可愛いー」
どきり。
最近、徹くんから可愛いって言われるとどきどきする。この間、知らない先輩に可愛いと思ってたから付き合って、みたいなことを言われたけどどきりともせず、むしろ嫌な気分になった。
私は、自分が思うよりずっと徹くんに恋をしているんだと自覚をした。
「徹くんもいたんだね」
「うん、岩ちゃんと二人で大会の作戦会議してるの」
「私も混ぜてー」
「いいよ、いいよ!ほら、俺の膝の上があいてるよー!」
腕を広げてくる徹くんに、一瞬笑顔が固まってしまった。ちょっと前の私なら、うん座る、って簡単に返事出来ただろうけど、膝の上になんか乗ってしまったら真っ赤になって爆発してしまうんじゃないかと心配で、素直に頷けない。返事をしない私に、徹くんが痺れを切らして、ほらこっち、って腕を引っ張った。体が徹くんの方に流されそうになって、踏みとどまろうとしたら、反対からも引っ張られる。
「っお兄ちゃん…?」
「及川の上に乗ると、汚れる。止めとけ」
「汚っ…!?岩ちゃん流石に酷くない!?俺、こんなに純粋なのに!」
徹くんはショックを受けたのか、私を掴んでいた手から力が抜けて、私はお兄ちゃんの膝の上にぽすんと収まった。お兄ちゃんは気にした風もなく、そのまま作戦を書いてぐちゃぐちゃになっている紙を真剣に見出したから、私もお兄ちゃんの邪魔にならない様に気を付けながら紙を見る。
徹くんはショックから立ち直ったのか、私の頭をよしよしって言いながら撫でた後、真剣な表情になって紙に視線を落とした。
「今年こそ」
徹くんが小さな声で呟いた。
今年こそ、全国の舞台へ。
中学最後の大会だからこそ、いつもより気合いも入るんだろう。少し力みすぎている様な気もするけど、私だって今年こそ北川第一が勝って、二人が喜んでる姿が見たい。毎年、負けた後に部屋で静かに泣いてるお兄ちゃんはもう見たくない。
「私、みんなが頑張れる様に何でもするから!」
どんなサポートだって、マネージャーになったからにはやってやろう。二人を元気付けようとして言った言葉だけど、徹くんが何でも…!?って過剰反応を示すから何か間違ってしまったのだろうか。首を傾げてみると、お兄ちゃんが徹くんの頭に頭突きをくらわせる。結構いい音がしたから、痛いだろう。徹くんは額を押さえて机に突っ伏してしまった。
「と…徹くん?」
「光儚、及川の自業自得だから気にすんな」
「え、お兄ちゃんが頭突きしたのに!?」
勿論だと言い切ったお兄ちゃんに動揺するけど、お兄ちゃんの膝の上でお兄ちゃんに逆らうわけにもいかず、徹くんのことは見守るだけにする。
少ししたらめそめそとしながらも徹くんは復活して、また真面目にお兄ちゃんと作戦会議を始めたので、二人の邪魔にならない様に静かにすることにする。
今年こそ、二人の努力が認められるといいな。
20141011
(…おい、光儚?)
(すー…すー)
(あれ、光儚ちゃん寝ちゃった?いいなー、岩ちゃん代わって)
(誰が代わるかクソ川)
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