ただ、隣にいる


練習試合が始まってからも、徹くんは焦っている感じが拭えていなかった。何年も続けてきたであろうお兄ちゃんとのコンビネーションのミスは、一回や二回ではなくて、スコアブックを書き込みながら個人で持っていたノートに書き込む。徹くんは、何かに焦っている。やっぱり、私には解決してあげられなかった。
監督の隣で、影山くんがすごい真剣な目で試合を見ていて、監督は徹くんと影山くんを何度も見比べてから、影山くんの名前を呼んだ。交替、だろうか。徹くんが焦っていることに監督だって気付いてるはずだ。でも、何も解決しないまま徹くんを交代させたら、徹くんのもやもやは溜まったままにならないだろうか。


「あ…」


また。
徹くんのトスとライトにいたスパイカーが合わない。レフトに跳んだお兄ちゃんも驚いている。


「影山、入ってみろ」


監督が、静かに告げた。
影山くんが返事をしながらコートへ入っていく。ウキウキとした表情はバレーが出来て心から嬉しいのだという気持ちの表れだろう。それとは対照的に、コートから出てくる徹くんはとても辛そうな顔をしていた。
影山くんが入って、拙いながら必死にセッターを努めているのを見つめながら、そろそろと徹くんに近付いていく。さっきまで動いていた徹くんに近付くにつれて体感温度が上がっていく。何て声を掛けようか。何も思い付かない。変に声を掛けない方がいいかも。
徹くんは俯いている。あ、手に力入ってる。膝に爪が食い込みそう。ゆっくりゆっくり、こつんと膝と膝がぶつかった。徹くんはぴくりと反応をしたけど、俯いたまま。もうちょっと。徹くんの腕に私の肩が当たる。またぴくりって動いた。ジャージを着ている私には徹くんの体温は直接感じれないけど、でも徹くんとくっついているところはあったかい。
徹くんは何も言わないから、私も何も言わずに、その場で試合を見続けた。スコアブックに何かを書くたびに、徹くんがちょっと反応するのが何だか可笑しい。私がノートに何か書いてるペンの音にだけ反応をしているみたいだ。徹くんの不調の理由は、やっぱり私には分からなくて、何にも言ってあげられないからもどかしい。

試合が終わって、呆れた顔をしたお兄ちゃんが思い切り持っていたタオルを徹くんの頭目掛けて投げ付けて、びっくりした徹くんが、何すんの岩ちゃん、て叫んだのを見て、お兄ちゃんは徹くんの相棒なんだって再認識して、少し悲しくなった。


「光儚、んなにくっついてると、ジャージ汚れるぞ」
「何それ、俺汚くないんだけど!?」


お兄ちゃんが私と徹くんを離す。右側に感じていた体温がなくなって少し寂しくて、右側をちらっと見ると、徹くんと目が合う。徹くんは、へらっと笑って私に手を伸ばしてきた。


「岩ちゃん、俺と光儚ちゃんが仲良しだからって嫉妬しないでよ」


そう言いながら、ぎゅっと抱き締められて、一気にぽかぽか。徹くんからは汗の匂いと徹くんの落ち着く匂いとがして、何か気持ちいい。徹くんを見るお兄ちゃんの顔は額に怒りマークが付いてる様に見えて、そのまま力強く徹くんへ頭突きをした。振動が私にまで伝わってくる。お兄ちゃん、いつもこんな力入れてたの。
結局、お兄ちゃんにより再度徹くんから引き剥がされた私は、片付けを始めようと動き出す。





20141017
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