あかつきをこえて

2019/06/02

両想いハッピー時空
覚醒したと同時に耳に入る鳥の鳴き声。うっすらと、カーテン越しに漏れる光。平常であれば静かな暗がりでひっそりと目がさめるというのに、随分深く眠りについてしまったらしい。重い身体をゆっくりと反対側に転がすと、おなじようにシーツに体を預けたままのハジメがいる。王路は、一度まばたきをした。こちらを向いて眠っていると、思わなかった。ほんの少し、緩やかな眉間の皺にいつもより幼さがにじむ。
遊びのような、戯れみたいな行為をずっと繰り返してきたけれど昨夜はなんだか少しだけいつもより楽しくなかった。
『巧、』
耳元で、聞き逃してしまいそうなくらいにそっと届いた言葉を自分のことだとすぐに認識出来なかった。意地悪さも揶揄いも、苛立ちすらない色の声に呼ばれた名前はたしかに自分の名だったのに。何故か息が苦しくて上手く返せなかった言葉の代わりにハジメの背につよく爪を立てた、むず痒いようなその声を塞ぐために彼の口を塞いだ。ばかみたいに互いのことだけを捕まえておくようなことは、初めてだったかもしれない。こんなに長くつきあっていたのに、と変なおかしさがこみ上げてくすくすと、空気が震える。

「……なに笑ってる」
「…起きてたの?」
「起こされた」

仄暗さのなかで、咎めるような意味の言葉は何故か柔らかく響いた。ハジメのまだ覚醒しきらない瞳が王路を見ている。一度笑い出すとなかなか止められずに王路は笑ったまま「そんなに煩くしてないよ」声はひそめてたもん、と内緒話をするように続ける。

「……目がうるさい」
王路の頬にかかる髪を払うように伸ばされたハジメの指先はそこにいる存在を確かめるようにゆっくりと、触れる。
「うそ、いつもそんなの気がつかないでしょ」
「気付いてる」
「気付いてるなら反応してよ」
擽ったいと、身じろぎはするもその手を払うことはない。
「ハジメ、起きたら買い物いこ? 」
「…昨日いっただろ」
「昨日は、買出しだったから。今日は買い物」
「……わかった」
なにが違うんだ、という言葉を飲み込んだハジメがベッドサイドに置いている腕時計に手を伸ばす。が、それは時間を確認することはかなわなかった。先ほどよりもずっと近くで穏やかに揺れる黒い瞳だけが、視界にある。


「でも、まだおきないで」

はじたくはじ