たくりつ

2019/06/02

巧←律

ちょうど良いところに、ちょうど良い高さの背中があった。
背後から少しだけ息を殺して近づいて、腰のあたりにゆるく手を回して身を寄せる。微かに聞こえる鼓動は規則的なままだ。
「うわ、…律くん? 驚いた」
「うそばっかり」
紅茶を淹れてる最中だったらしい手は一度お湯の入ったポットを置いて、一回り小さな律の手に重なる。退けもせず大人しくしていると、そのままゆるく握られる。
「僕としては是非正面からお願いしたいな」
「お断りするわ。 どうぞ私は気にせず作業を続けて下さる?」
「お茶より律くんが僕は気になるよ」
「私は気にならないわ」
身動ぎ一つしない律に諦めたのか、陶器の擦れる音が響く。規則的な心音と、乱れのない呼吸音。

「…巧さんがこのまま冷たくなってくれたら、最高なんだけれど」
「怖いことを人の背後で呟くのはやめてくれないかな、律くん」

ちょうど良い高さと、ちょうど良い音。それなのに生暖かい温度だけがちょうど良くなかった。

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