ロンカクの次の日
2019/06/02
レモンのにおい
右肩にのし掛かる重さ。普段に増して緩く、軽い口調。嫌味のように果実の清涼感を滲ませた空気が鼻につく。
「自立できないほど飲むな」
眉間に皺を寄せた一とは対照的に、王路巧はしまりなく、笑った。
振動音に目を開けると、マンションのベッドルームだった。端末を手に取り通話ボタンを押すと、申し訳なさそうな声色で機嫌を伺う看護師の声。お休みのところ申し訳ありません、から始まり一通りの謝罪の後ようやく用件を伝えた彼女に、端的に答えを述べていく。「なるほど、ありがとうございます園崎先生」「いや、構わない。…そういえば、王路先生は本日出勤してるか?」一の言葉に看護師は戸惑いを隠さないまま「王路先生は休職されてますよ、…まだ復帰はされてませんよね?」と確認のように聞き返された。短く肯定の返事をし、切断ボタンに指を押し当てる。
ベッドに自分以外の温度は無い。昨夜開けたばかりの煙草の箱は見当たら無い。酒を飲んだはずの身体には特有の倦怠感は特に感じられない。
いない人間の夢を見るような情緒的な面もあるのかと、嘲笑混じりに火をつけた煙草の匂いは纏わりつくような檸檬の香りを霧散させた。