夜の隅っこ
2019/06/02
病棟24時
ひんやりと冷たい空気が落ちる。喧騒が遠ざかるとともに身に沈む疲労は目を閉じたら意識を持っていきそうだった。
普段はちょっとした談話スペースで、長椅子には代わる代わる人が座るさわがしい場所だが、今は自動販売機の照明だけがそこに浮き出るように光っている。
気を抜いて仕事場にいた事は一度もないが、イレギュラーな対応が重なるとほんの少し息苦しかを覚える。濁流のようなものごとか落ち着き、静けさを取り戻せばまだ朝は遠かった。仮眠室に戻る気にもなれず、たまたま通りかかった病棟隅の椅子に座れば立ち上がる気が一気に失せてしまったのだ。
一服したい、と思ったが机に置き去りにしてきた煙草が手元にあるわけもなく。そもそもあったところで喫煙室にすら赴くのが面倒だった。
「はじめくん見っけ」
「……」
重い夜の静けさを散らす声に目だけ向けると、軽い足音を鳴らしながらこちらに王路が歩いてくるのが見えた。
「仮眠室戻ったって聞いたのにいないんだもん」
「……」
「外でそんな顔してるの珍しいね」
何が面白いのかにこにこと笑って、ハジメの側に立つと「おつかれさま」と缶コーヒーを差し出した。ハジメは一瞬王路の顔を見てから差し出されたそれを受け取った。
「……煙草が吸いたい」
「持ってきてないよ」
「期待してない」
文句でも注文でもなく、どちらかといえば愚痴のように流れた言葉に王路は少し困って見せるように眉を下げた。特に続ける会話もなく、缶コーヒーのタブに指をかけると、側に立っていた王路がハジメを目の前から見下ろすように立つ。「なんだ」と顔を上げると、王路の長い髪が頬に触れる。同時に太腿に軽く重みがかかる。すぐそこで薫る檸檬の匂いに一瞬コーヒーから手を離しそうになった。
「……場所を選べ」
「だって、口寂しいのかなって思って」