陽菜
2019/06/02
余命宣告と言う
身体が酷くだるいと感じた。
少し前の自分であれば、二日酔いを真っ先に疑っただろうが残念ながら最近は酒からは縁遠くなっている。
「しんぷさま、おかおがまっさお!」
「…………そうですか?」
じっとこちらを見上げる顔は寒さからか頬が少し赤らんでいる。「かぜ?」と首を傾げる子供の言葉に反応して周囲で遊んでいた子どもたちも「いんふるえんざ!」「じんぷさまだいじょうぶ?」と騒ぎ始めた。風邪と言うには悪寒は無いし、インフルエンザと言われれば…一抹の不安。何にせよ子どもたちの耳に入ってしまった単語は遅かれ早かれ親の耳へ届く。面倒だが、健康だという証明は出来る様にしておかねばなるまい。ただでさえ私情で教会を空けることが多くなってしまっている。口を挟まれる隙はなるべく潰しておくべきと判断して、意を決して病院へと向かった、のだ。
それがつい昨日のこと。
病院には来たくなかった。陽菜としてはまだ思い出にするには新しい記憶がありすぎるのだ。ため息をつきながら、待合室でぼんやりとスマートフォンを眺める。
ぴこぴことひっきりなしに鳴り続ける通知はもう顔も思い出せない名前ばかりで、特にそれらを返しもせずに、非表示やら削除やらを選択していく。見知った名前が、沈んでいくのが嫌だった。マスクのせいか酷く息苦しい。
「藤崎陽菜さーん」
看護師の声に反応して立ち上がったころには、スマートフォンはすっかり黙り込んでいた。
良くて疲労、最悪インフルエンザ。それが陽菜が自分で予想していた診断結果だった。インフルエンザなら、覚悟して注射の一つでも撃ってもらおうと、そのくらいの気持ちではあった。
しかし予想に反して、「原因不明」と告げられた。まったくすっきりとしない結果。加えて医師はとても気の毒そうに、言葉をつづけた。
「原因は…一度の診察では断定できず、」「心肺機能の低下と―、血液の、」「このままだと、―」
余命宣告。残りの命は、というやつだ。
頭がフリーズして動かなくなった。医師からなにか更に言葉を重ねられた気がしたが何も聞こえなくなった。とりあえずまた三日後に検査をすると言われて診察室から出された、ようだった。なんとなく家に戻る気にもなれず、閉めたままの教会で一人ぼんやりと座って、途中で何故か買ってしまった甘いココアを飲んでいる。甘すぎて泣きそうだ、と一口口を付けてから減らない。