はじめちゃん
2019/06/02
後天的♀
自分の性別が突然変わる、なんてことがまさか身に降りかかるとは想像もしたことがなかった。
「…っう、く、……ぁ」
随分と高く、猫の鳴き声に似た音が自分の口から漏れていることに慣れない。慣れないどころか頭の中ではずっと否定の言葉が並んでいる。ーーこんなのは、自分ではない。
「はじめ」
並ぶ言葉を悉く踏み潰すように、わざとらしく耳元でゆるりと名前を呼ばれる。表情を見られぬようにと顔を隠したせいで、言葉を拾うそこは無防備に曝け出されていた。「はじめ、」いつもの甘えたような言い方に加えて隠そうともしない加虐の色にはじめは奥歯を噛み締める。耳元でカチ、と金属が擦れる音がする。絶対に返事などしてやらない。
「せっかく可愛い声なんだから返事して欲しいなぁ、ね?」
「……、…」
男女の身体の差なんてものは職業上いやというほど理解しているつもりだった。それこそ筋肉のつき方だとか、痛みの感じかた、とか。自分の手を無遠慮にシーツに押し付けている男の手は、普段ならなんてことなく押し返せるものだ。大人しくされるがままに縫いとめられた一回り以上も小さく細い腕に目眩がする。
……ね、はじめ」
なにか、巧が言っている。本当に話を聞かせる気があるのかと言うほどに容赦なく身体の向きを変えられ、曲げられる。男なら、無理な角度だ、とどこか乖離している思考でそんなことを思った。
「聞いてる?」
聞かない、あいも変わらず押さえつけられた手のせいでうまく顔を隠せない。王路の顔を見ないように視線を部屋の隅へとなげる。このベッド、こんなに広かっただろうか。少しだけ自由に動かすことができる指でシーツを手繰るが、すぐに王路の指に攫われた。
「ーーーはじめ、この身体って中で出したら妊娠するのかな?」
言葉を理解する前に、しまった、と思った。
「ようやくこっち向いたね」
まるで知らない人間のように目の前の男が見えるのも、これが女の身体だからなのだろうか。