創設期
ビッチ注意
続きました
今日も疲れたぁ。全くあの上司鬼過ぎるのよ。やってもやっても終わらない仕事の山を見てどれだけ気力を削がれたか、ワーカーホリックにはわからないのでしょうけど。
「風呂先に頂きましたー。イズナくんも入ったら?」
「ああ、うん。そうするよ」
綺麗な姿勢で巻物を読んでいたらしいイズナくんは顔を上げて、微笑んだ。相変わらず綺麗な顔してるわよね…。美人だと自負してるけど、イズナくんには敵わないもの…。
母は早くに他界してしまって、父に育てられたのだけどその父が亡くなってからは幼馴染であるマダラくんとイズナくんの家にお世話になっていた。今は一人暮らししているから、今日は久々の帰郷というわけだ。
「……name、いつの間に扉間のものになってたの?」
「はぁ?なるわけないでしょ。あんな堅物男」
「でも、ほらここ」
バスタオルで髪を包んで、露になった項をなぞられる。こそばゆい。意味が分からず、今は私より高くなったイズナくんを見上げれば、ちょっと待ってねと写輪眼になり今見た光景を見せてくれた。そこには確かにイズナくん視線のビジョンが映し出されていて、私の首筋には確かに扉間さんの戦場で見慣れた飛雷神の印が…あっ…て…………。
それを見てすべての辻褄があった。遊んでいた男が急に誘ってもノってこなかったこと、男をひっかけていい雰囲気になったと思ったら急に青ざめてどこかに行ってしまったこと。一度や二度じゃない。今思えば首筋を見ていたような気がする。
「あ…っの……クソやろぉおおお!!!」
「?!」
髪に巻いていたバスタオルを剥ぎ取って見えないように首に巻き、寝間着のままサンダルを履いて全力疾走でうちはの集落とは反対に位置している千手へと向かうため木の葉を縦断する。風呂に入ったばかりだというのに、最近デスクワークばっかりだったせいか汗も噴き出るしサンダルから砂が入って気持ち悪い!けど気にしていられない!
立派な屋敷の千手の玄関まで辿り着いて、漸く足を止めた。こんなに走ったのはきっと戦場で逃げる時以来だ。荒い息を整えて、立派な玄関の引き戸を開ける。
「夜分遅くに失礼しまーす!扉間さんはいらっしゃいますかー!!」
「あらあら、nameさん。こんな時間にどうしたの?」
「ミトさん、すみません。扉間さんはいらっしゃいますか?」
「え?えぇ…今は部屋でお休みになっていらっしゃると思いますけど…」
「お?nameじゃないか!こんな時間にどうしたんぞ?」
「おじゃまします」
サンダルを脱ぎ捨てて柱間さんとミトさんに出来るだけ笑顔を向ける。きっと笑えてない。二人の顔引きつってたもの。けど今はどうでもいい。一度だけ急ぎの書類を届けに扉間さんの部屋に足を踏み入れたことがあった。その記憶を頼りに歩を進める。雰囲気を察したのか、柱間夫妻は追いかけてはこなかった。心遣いに感謝する。だって今の私の顔見られたくないし。
「name、か?お前こんな夜更けに女が…っ!」
タオル片手に髪を拭っている扉間さんを開け放った部屋の中で発見して、言葉を紡ぎきる前に平手打ちした。乾いた音が辺りに響き渡り、静まり返った空気には私の荒い息だけが聞こえる。訂正、後ろで見守…覗いている柱間夫妻の息を飲む声も聞こえた。さっきの感謝返してほしいわ。
「…っあんったって男は!!どうして私の邪魔ばかりするの!!!」
「…」
「私が男と遊んであなたに迷惑かけたかしら?!ないでしょ!」
もはや叫び声というより絶叫や怒号に近い。扉間は頬を力の限りひっ叩いたというのに怒る素振りもなく、ただ私の様子を観察していただけだ。その行動にまた怒りが込み上げて、巻いていたタオルを力任せに外した。
「このマーク消しなさいよ!」
「飛雷神の術式は一度刻んだら二度とは消せん。お前も知っているだろう」
「ふざけないでッ!!術者なら解術くらい覚えときなさいよ!」
また押し黙る扉間に怒りは治まるどころかヒートアップするばかりだ。就寝前だったのだろう。傍に敷いてあった布団から枕を剥ぎ取り、それを顔面に叩きつけようとするがそれは片腕で掴まれてしまう。引っ張るかびくともせず、やがて怒りは涙に変わりその場にへたり込んだ。
「なんで…っなんでこんなことするのっ?そんなに私が独りでいるところ見ると楽しいの…っ?もう扉間なんて大っ嫌い…!!」
さん付けすることも忘れて溢れてくる涙を腕で拭う。上っていた血が頭から抜けていくのを感じた。一気に冷静になる。なんでこんなところで泣いてるんだろう…。今頃明日することを計画して眠りに就いていたというのに。
目の前の男は一瞬だけ視線を背後に映し、そして私の拭っている腕を掴んだ。背後の部屋の障子がそっと閉じたことにも気付かずに、腕を振り払おうとするが敵わない。
「擦るな。明日腫れるぞ」
「…うっさい……ほっといて」
涙は治まることを知らずに次から次へと溢れてくる。掴まれた片腕は諦めて、もう片方の服の袖で涙を拭いた。咎めるわけでもなく、静かに扉間は見守った。
やがて私が落ち着いたのを見計らって、薄い唇は開いた。
「お前何故、そうまでして多数の男と夜を共に過ごしたがる」
「…そんなの、趣味に決まってるじゃん」
余りに大泣きしすぎて生前の私の口調になってしまう。扉間の鋭い視線に耐え切れず、視線を床に反らした。変なの。仕事ではその視線に引け目を感じたことなんてなかったのに。上質そうな布団と畳が目に入る。寝心地良さそう…。
「嘘だな」
「!…」
見透かされたことにか、真実だったからか。顔を上げてしまい、瞳を見た。見てしまった。私はこんな視線を、向けられたことは、ない。
「オレではお前の傍にはいられないか」
「…っふざけないで!今まで散々好き勝手してきたくせに!今更そんなこと言うなんて…っ」
今まで求められるままに行為を重ねたけど、愛の台詞なんてなかった。ないくせに体は扉間じゃ満足できないようにしたくせに、今更そんなしおらしいことを言う。
「…言ってなかったか?」
「聞いてないわよ一度も!」
「そうか」
掴まれていた腕を力任せに振り払った。今度は抵抗することなくするりと離れる。その小さな出来事が、堪らなく寂しいと、思ってしまう。心を許してる自分がいる。けど、これ以上踏み込んでほしくないと叫ぶ自分がいる。途端に恐ろしくなった。こんなに肌を重ねた男は、心を許した男は、昔結婚していた男だけだ。いや、そいつ以上かもしれない。
「帰る」
「待て」
立ち上がり背を向けるが、肩を掴まれてしまい有無を言わさないその力強さに一瞬立ち尽くす。また歩を進めようとすれば、後ろから抱き留めて私の手より一回り以上大きな手が肩と腰に回った。背後の温もりに、さっきで枯らしたと思っていた涙がまた溢れそうになる。
「name、好きだ。愛している」
「…っ!いや、はなして…!」
背後から囁く掠れた男の声に身体が震える。嬉しいと思ってしまう自分が、どうしようもなく恐い。幾らもがけどもその腕は外れることはなく、暴れるのにも力尽き、回った腕に手を添えた。
「何故だ…。お前は、どうしてそこまでオレを拒む…?」
「いやよ、いや。だって…だって、きっと扉間も私を嫌いになってしまうわ」
「オレはお前を嫌いになったりしない」
「みんな初めはそう言うもの」
扉間から逃れようと踏ん張れば、すんなりと外れる拘束に安堵と同時に心臓が悲鳴を上げた。ほら、やっぱり。めんどくさい私なんか誰も相手にしないのよ。泣きそうになるのを奥歯を食いしばり我慢して、足を踏み出せば肩を掴まれてひっくり返される。正面には頬を緩めた扉間がいて、両肩から頭と背中に手は移動する。顔は首筋に押し付けて、扉間は喉の奥で笑いを噛み殺す。隠してるつもりでしょうけど、喉が震えているからすぐわかるんですけど。
「面倒な女だな」
「う、…うるさいわよ……」
何がツボに入ったのかわからないけど、身体を震わせ笑いを堪えて居る扉間に苛立って胸を押し返そうとするがやはり力では敵わない。
「もう、はなしてよ!」
「断る。…お前みたいな面倒な女をみれるのはオレだけだ」
「なっ…!」
面倒で悪かったわね!と口では叫びそうになるが、頭の中ではプロポーズともとれるその台詞に処理が追い付かない。
「オレが一生傍にいてやる。面倒を見てやる」
「、な…、な、っ」
「だから、オレを見ろ。オレだけを見ろ」
頬を両頬から掴まれ、視線を無理やり合わせる扉間の緊張を孕んだその視線を見つめていたらなんだか力が緩んだ。意味を成さない言葉ばかり吐いていた私の口からはいつの間にか笑みが零れていた。普段どんな会議するときだってそんなカオ、しないくせに。
「は…ふふっ、何その上から目線…」
「……笑うな」
ばつが悪そうにそっぽを向いた扉間の顔に、どうしようもない気持ちが込み上げる。言葉にしただけでこんなに気持ちがコロッと変わるなんて、私も単純な女ね。
「そのオレサマを相手に出来るのは、きっと私だけね」
「!」
先ほど思いっきり打ってしまった謝罪を籠めて頬を優しく挟み込む。応の言葉を告げれば目を見開いた後口角が緩むのを見た。貴方ってそんな顔も出来るのね。そのまま唇を寄せ合おうと顔が近付く。あと一センチにも満たない距離に達するが、涙ぐむ声に動きを止めた。音の発生源を辿れば涙を流す柱間さんと、同じく瞳に涙を溜めているミトさんが障子の隙間から覗いていた。
「うぅ…!やっと…やっとぞ…!」
「えぇ、えぇっ長かったですわ…!扉間様が片思いをなさってからどれほど時が経ったか…!」
「甥っ子か姪っ子か、楽しみぞ!」
「兄者…義姉上まで…」
「……ふふっ」
ミトさんの口から語られた台詞に、くすぐったくて笑う。やだ、睨まれちゃった。こわーい。
甥っ子姪っ子談義を始めていた気が早い柱間夫妻を追い出そうとしたところで、千手家のインターホンがなる。鳴ったと同時に引き戸が開いた音が響いたと思ったら、マダラくんの怒号とイズナくんの宥める声が聞こえてくる。どうやら飛び出した私を心配して迎えに来てくれたらしい。私の身を案じる声に、静かに笑う。
なんだ、私って結構大切にされてきたんだね。それなのに誰も傍にいないと寂しがっていた自分が一気に馬鹿らしく思えた。
溜め息を吐いて向かおうとする扉間に手を引かれそうになって、それを弾いて敷いていた布団にダイブした。布団ふかふか!お日様の匂いと、ほんのり扉間の匂いがする。
「知らなーい。もとはと言えば私に許可なくマーキングした扉間が悪いんだから」
「ぐ…」
「嫁入り前の娘に一生ものの跡を残すとは…」
「扉間様…」
「黙れ、兄者!」
玄関から足音を響かせて近付いてくる二組に、扉間は珍しく焦りの表情を浮かべる。いい気味だわ。
「一生面倒みてくれるんでしょ?ダーリン」
「………はぁ…」
枕に埋めていた顔を上げて、挑発するように笑えば耳元で明日は覚悟しろよと囁く。明日は仕事はないから、きっと夜のほうだ。扉間の絶倫具合を思い出してぞっと背筋が凍ったが、私たちの様子に自分の事のようにはしゃいでる柱間夫妻を追い出して障子を後ろ手で閉じる扉間の背中に心臓が騒いだのは仕方ないことよね。
障子の外で騒ぐ声にそこはかとない安心感を覚えて、張りつめた空気から解放されたからか泣き疲れたか、体中の力が抜けてそのまま瞼を閉じた。
(漸くマダラとイズナの気が収まったが…あの四人の酒盛りにはついていけん…)
(…スー…スー…)
(………あの騒ぎの中寝るとは…大したやつよ、まったく)
翌日同じ布団に二人収まって目を覚ましました。
20170228
シリーズしたかった…
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