ホグワーツ。
そこはイギリスの魔法族が通う魔法の学校。
児童向けに作られた小説の世界だと、私は思ってたのに。
死んだらそこは魔法の世界だした、なんて…笑えない。
ここに入って四年生に上がった。興味のある分野に関しては成績は飛びぬけてよかったが、ない分野に関しては最低点ぎりぎりという成績。
父親は勉強についてはあまり言ってこないが、クィディッチやイタズラに関しては口煩い(叱られるという意味ではなく)。やっぱりというべきか、私もあの人の娘だけ合って、双子とともにイタズラを仕掛けまくっている。だって楽しいし。
「name!またイタズラしにいくの?!」
「違うよ、ハーマイオニー。魔法薬学でわからないことがあるからスネイプ先生にご鞭撻のほどお願いしにいくだけ」
「…本当に?」
ちょっと皮肉を込めて言ってやる。あの先生はイタズラ好きの私が誰かに被るのか良く私に意地悪をしてくる。それをにこやかにかわして、変化球で返してくることがさらに気に食わないらしい。その反応を見て笑うことが私の趣味だ。
「ホント。私を信じられない?」
「だって、nameったら、息をするように嘘をつくんだもの!ねぇ、ハリー?」
肩を竦めてハリーは息を吐いた。
「僕の双子は大嘘つきだからね」
「失礼ね、嘘はついてないもの。全部本当のことよ」
「じゃあ君は前世で日本で住んでたって言うのも本当のことだっていうの?」
聞いていたロンがカエルチョコを食べながら問う。私は頷いてウインクする。
3人は私のいつもの様子を見て少し笑った。
様子を見ての通り、私はハリー・ポッターの双子として生を受けた。
けれどもそこは原作と違っていて、ジェームズとリリーが生きていて、悪戯仕掛け人たちがたまに集まって飲み交わしているような、そんな世界だった。
てっきりヴォルデモートに殺されると思って生を受けて一年ほどはびくびくして過ごしていたがそんな素振りはなく、平和に今まで生きてきた。私得である。
平和で好きな薬学を研究できて、魔法も使える!
もうこないと思っていた学園生活をエンジョイしているのだ。
わからないところをスネイプ先生に聞いて(すっごく嫌な顔をしていたが教えてくれる先生は根は優しい。とっても意地悪な教え方だったが)、私の秘密の部屋で実験する。
おおっと勘違いしないできいてほしい。決してサラザールが残したあの秘密の部屋ではなく、原作にも語られていない秘密の部屋だ。絵画に合言葉を言うと部屋が開く。グリフィンドールの談話室でもないんだからね。
今回もイタズラのために薬を開発していたときだった。この薬品は危険だから気をつけろと先生に言われたばっかなのに、私はそれを誤った順番で鍋に投入してしまった。辺りに広がる煙。煙を吸ってしまったせいでくらくらする頭をどうにか押さえ、部屋を脱出して私は意識を失ってしまった…。
「おーい!こんなところで寝ていたら風邪を引いてしまうよ!」
「寝ているわけじゃないんじゃあ…」
「じゃあなんで気失ってんだよ」
「どっちにしても見かけない顔だねぇ」
なんだか声がする。4人、どの声も聞いたことがあるような…ないような…。
痛む頭を抑えて重い瞼をうっすら開ける。そこに見えたのは見慣れた、けれどどこか違う私の双子の姿だった。
「は、りー?」
「ハリー?誰だい、それ」
同じハシバミの瞳がかちあう。この人は、ハリーじゃない。
「やっと目が覚めたのか」
「顔色悪いようだけど、大丈夫かい?」
黒髪にこれでもかというくらい整った顔立ちの灰色の瞳。優しい鷲色の瞳と髪。そして不安そうにこちらを見つめる茶色の瞳とくるんとはねた髪。
そして私の肩を抱き上げているのはハシバミの瞳とはねまくっているくしゃくしゃの髪にメガネ。
父さん、そう咄嗟に出てきそうになって慌てて身を起こして口を塞ぐ。さっきまで呆然としてて口開けっ放しだった。恥ずかしい。
「大丈夫かい?僕の顔を見て飛び起きるなんて…もしかして僕に惚れたかい?!けどだめなんだよ、ボクにはリリーっていう…」
「ジェームズうるせえ」
ああ、あの自信過剰なところ。紛れもなく父さんだ。しかも今よりうざ…喧しい。あれ、変わんなかったかな。
今までの状況を整理して…つまりは……夢か。
「友達がうるさくてごめんね。さっきからずっと口を押さえてるけど、本当に大丈夫?吐きそう?」
うわあああリーマスが!若いリーマスが私にハンカチを!しかも背中を撫でてくれていらっしゃる!ここだけの話私リーマスが一番好きなんだよね!今も昔も!
「だ、大丈夫。ありがとう」
何とかにやける顔を抑えて、立ち上がって制服の塵を払う。少し薬の臭いはするが、まあ気にならないレベルだし、服の汚れもたいしたことはなかった。髪も綺麗にして改めて4人を見る。うん…写真で見た姿のままだ…!
「倒れていたところをどうもありがとう」
「どういたしまして!ところで君…なんだかリリーに似てないかい…?」
今より少し背の低いジェームズが私の顔をじっくりと見つめてそう言った。内心ひやりとしたが、私の演技力を舐めないでもらいたい。
「ああ?確かに…?」
「でも…瞳は」
シリウスにもじっと見つめられ、穴が開きそう。私の容姿はリリーにそっくりだった。けれど違うのは父の瞳と性格。
リーマスにもなにか考えるように見られ、そしてピーターが余計なことを言う前に被せた。
「ふふ。そんなに見つめされたら照れてしまうわ。それとも…私に惚れちゃった?」
ぱちんとウインクをしてジェームズに言うと、一瞬だけ目を瞬かせたあと腹を抱えて笑い出す。
「キミ、おもしろいね!見たところグリフィンドールだろう?名前は?」
「ありがとう。そうね、ゆりって呼んで頂戴?」
咄嗟に出てきたのは私が前世で呼ばれていた名前。親がつけてくれた名前を言うのは、なんだかいけない気がした。ちなみに英名の百合ではなく、日本語で百合だ。
それぞれから自己紹介を受けて、握手と微笑みを返す。
「ってか薬の実験はどうすんだよ」
「薬の実験?」
話を聞く限り彼らは私が使っていた秘密の部屋で実験をしていたらしい。そういえば本とか置いてあったけど…あれって父さんたちだったんだ…。私が見つけたと思ったのに、少し悔しい。
「耳と尻尾を生やす薬?それなら私、作れるわよ」
「本当か?!」
頷いてにこやかに返す。どうやら今年のハロウィンで使うらしい。
材料を伝えれば彼らはそれを取りに森に取りにいくという。
「それなら8階に集合しない?」
「8階?どうして?」
「まぁまぁ、いいから。ね?」
不思議そうな顔をする彼らは必要の部屋の存在を知らないようだ。笑ってウインクを零せば、何か察してくれたのか森に材料を取りに行ってくれた。
振り返って絵に合言葉を言えば入らせてくれるのだが何故だかそうしなかった。これは夢なんだから、もう少しくらいいいよねと言い訳を零して私はその場を後にした。
8階に向かう途中、道行く生徒と眺めながら、ふと白い髭ときらきら少年のように輝くブルーの瞳と目があった。ダンブンドアだ。少し動揺したが微笑を返して、横を通り過ぎようとした。
「そこの者。ちっとばかしじじいの話に付き合ってくれんかの?」
見慣れない生徒を見過ごすわけないよねー!
「もちろんです、ダンブンドア先生」
振り返って瞳を見つめ返す。開心術を使われても構わなかった。だってこれは夢なのだから。
「最近物忘れが酷くての、ついこの前なんかは久々に会うた友人の名前が出てこなくてのぅ。失礼じゃが、ミス…」
「カリエドです、先生」
「ミスカリエド」
ここに来るまでに考えていた苗字だ。しかも某擬人化の一番好きなキャラの。たまんねえええ!!
ダンブルドアが確認するように私の名前を呼ぶ。ものすっごい疑われてる…。そりゃあ見かけない人物が歩いてたら不審がるよなぁ。一年生ならまだしも、すでに14となる身だしね。
「ホグワーツでの生活はどうじゃ?」
「とっても楽しいです。ここは本当に素晴らしい場所だわ」
敵意はないことをアピールする。夢の中だがダンブルドアなら他人の夢の中でも叩き起こされてしまいそうだ。
「そうかそうか。それはよかった。ミスカリエドが気に入ってくれてわしは嬉しい」
「ここはまるで…そう、宝箱のような、そんな場所に感じます…。一時の、夢のような…」
きらきらした目を細めてダンブルドアは相槌をうった。その顔はまるで子供を見るかのように、慈しむ心を持った人しか出せない表情だ。
彼にとっては生徒が我が子のように感じるのだろうか。
「わしも似たようなことを思っておるよ。ここが皆の家になればよいと。そしてここに入学したものは全て愛すべき存在じゃと思うておる。もちろん、君もじゃ」
まさかそんなことを言われるとは。会ってばかりの、不審者である私に。驚く私を余所にダンブルドアは続ける。
「じゃが、夢のように時が過ぎようともしっかりと目を開けなければならん。でなければ、見失ってしまうからのう」
ダンブルドアはウインクを一つ残して、そういうと背を向けて歩いて行く。未だに呆気にとられて立ち尽くしている私を一度振り返り、微笑む。夢は現実ではあるまいよ。そういい残して。
不思議に思いながら、漸く我に返った私は深く考えずに8階へと向かった。
必要の部屋の前に行けばそこには誰もおらず、ダンブルドアと話してたとはいえ、やはりジェームズたちのほうが時間がかかるらしい。
念じて三回往復すれば浮き上がる扉。開けたらそこは実験するのに必要なもの全て揃っていた。入って準備をしながら先ほどのダンブルドアの言葉を思い出す。夢は現実ではない。当たり前じゃないか。夢は夢でしかないんだから。
少しして囁き声が聞こえてきてそれがジェームズ達だとわかって、守護霊に伝令を持たせて向かいに行かせる。私はこの魔法が大好きで、とくに何もなくてもよく出していた。ちなみに私は鹿ではなく、狐。
「キミは守護霊も出せるのかい?!」
「しかも言葉持たせてたよ…!」
部屋に辿り着いた4人が目を輝かせて走り寄ってくる。父に対して使うのはおかしいかもしれないけど、かわいい。くしゃくしゃの頭を撫でて笑う。
「かわいいよね。さあはじめよっか。準備はできてるから」
取ってきた薬草を切り刻んで鍋に入れ、決められた回数をかき混ぜる。4人は手持ち無沙汰になったのでそれぞれ好きなことをしていた。
「そういえばキミ学年は?」
「この薬が作れる学年かな。ジェームズたちは何年なの?」
混ぜっ返して問えば、鍋を真剣に見ているジェームズは答えた。
「僕らは3年さ!」
私より年齢が下の父親なんて笑える。けれども前世を年と考えるなら、もともとそんな感じか。
鍋の様子を見つつちらりとジェームズを盗み見た。きらきら輝くハシバミ色な目があった。
じゃあまだアニメーガスじゃないんだ。
「へえ、そうなんだ」
「結局何年なんだよ」
「じゃあ、私を見つけてみて?」
見慣れているシリウスより幼い顔立ちが歪む。やっぱり私は少し意地悪を返してやるのだった。
薬を混ぜ終え、あとは一定にかき混ぜながら数時間煮込むだけになって、ようやく私は4人の顔をじっくり見ることができた。
みんな若い…。髭ないし、白髪もないし。ってか父さん眼鏡のせいかあんま変わってない…。
「そういえばさっきリリーって言ってたけど、その子とはどうなの?」
「リリーとかい?!そりゃあ毎日愛し合ってるよ!」
「はは、そっけなくされることが愛って言うならね」
興奮するジェームズとは裏腹に毒を吐くリーマス。うん、変わんないね。
ピーターやシリウスに限ってはなんてこと話題にしてんだという目で見られた。それは永遠に続くかと思われる彼の話しのせいだった…。
「それでね!リリーの瞳がきらきらしててすごく綺麗なんだ!勉強しているときの真剣な瞳なんか特にね!あ、瞳だけじゃなくて全て綺麗なんだけどね?」
「うんうん」
「あの脚もたまんないね!挟まれたいよ!」
続く話にすでに私以外の他3人はそれぞれ好きなことをしていて聞いていない。滑らかにまわる舌にある一種の尊敬を抱かずにはいれない。うざいけど
「あと正義感が強いところも好きだね!さすがはグリフィンドール!しかも…」
「そこまで、」
「?」
一区切りついたところを見計らって間を入れれば、ジェームズは不思議そうな顔をして私を見た。ハシバミが重なる。
「そこまで人を好きになれるあなたって、とっても素敵だと思うわ」
これは常々思っていたことだ。毎日うざいくらい愛を囁きかける父さんに。恥ずかしくって、今まで言えなかったけど。
ハシバミが見開かれて、そして少し気恥ずかしそうに、はにかんだのだった。
目が覚めたら、伝えてみようか。私の父と母に、感謝を。
「なんでお前がジェームズをくどいてんだよ」
「…!く、どいてた、わけじゃ…!」
「ははは、確かに、告白してたみたいだったね」
「おっと!いくらキミがリリーに似ているからと言ってもボクはキミに靡かないよ!なんたってボクにはリリーがいるからね!」
「はは、」
シリウスの言葉に少し恥ずかしくなって、鍋に集中した。といってもほとんど完成してるから集中するほどのことでもないんだけど。
そこでふと彼の話を思い出した。
「誰からも愛される人もいれば…、誰にも愛されない人もいるんだねぇ…」
「?誰の話だ?」
首を傾げる彼らにある物語を、話した。心のどこかで、残っていた、寂しい悲しい、ある人物の話。ヴォルデモート、もといトム・リドルの話。
純血一族の話。恋の話。子供の話。産まれついた孤児院の話。学校の話。
誰からも愛されず、力を求めて、そして力尽きた。
「…悲しい、話だね」
語り終え、リーマスがそう呟いた。
「だとしても、学校とかで友達でもできたはずだろ?」
「彼のずば抜けた頭脳では、対等がいなかったんだね。きっと」
出来た、と鍋から火を消し、そしてそれを飴にしていく。ここからは協力作業でそれぞれ飴を作っては包装紙で包んでいった。
「ねえ、さっきの主人公はどうなったの?」
「…死んだよ。みんなに望まれて、非道の道を辿って」
極悪非道の道を進んだ彼は、殺された。私の父によって。
父さんは英雄と呼ばれたが、自信過剰で調子乗りの彼らしくなく、この話に関してはみんなのおかげで、僕がすごいのではないと言って、口を閉ざした。
「その、主人公の、名前は?」
恐る恐るピーターが口を開く。
みんなの作業をする手が止まり、視線が集まる。ここで嘘をついては、はぐらかしては駄目だと第六感が告げる。
「トム・マールヴォロ・リドル。またの名をヴォルデモート」
「…!!」
空気が一斉に変わるのを感じた。杖を手にそれぞれが反応を示す。
「その名を口にするな!」
どうやらここでは彼は健在らしい。なにがどう変わって原作から外れたのかは知らないが。
「どうして、その話を知っているんだい?君は例のあの人の…仲間かい?」
「それは違う。絶対に」
リーマスに問われる。
杖を向けられるのを感じながら、作業をする手は止めなかった。
「その話は事実なのか?」
「私が知る限りでは」
手を止めて彼らを見上げた。杖を向けているのはシリウスとリーマスで、ピーターにいたってはシリウスの後ろに隠れていた。
驚いたことはジェームズが手を止めずに作業を続けていたことだ。
「彼女はあいつの仲間じゃないよ。もしこの話を話したとして、なんの利益があるっていうんだい?」
ジェームズがいつもの調子で話す。確かに、と彼らは杖こそおろしたが警戒は解いていないようだった。
少し、嬉しかった。彼からしたら今は他人であろうけども、実の父親が信じてくれることが、どうしようもなく。
「どうして、その話を知ってるんだい?本人から聞いたの?」
「会った事ないよ、ヴォルデモートとなんて」
私が生まれる前にはもう存在しなかったみたいだし。そういえば、と父さんの話を思い出す。
『僕らは地図を頼りに辿り着いただけさ』
もし、これが現実で、この先を知っている私が、それを残したとしたら?
「変えられる…!」
立ち上がって呟けば、それぞれの瞳が私を向く。でも待って、これって夢じゃないの?
「リーマス!」
「な、なに?」
私の突飛な行動に驚く彼らを余所に、リーマスの肩を掴む。後退るイケメンの顔を追いかけて、お願いを口にした。
「私を!殴ってみて!」
「…えーと……」
やっぱり殴られるのなら好きな人がいいと思ってリーマスを選んだのだが、やはり優しい彼には難しいだろうか。
「いやいやちょっと待て」
「そうだよ!だいたい女の子の顔を殴れるわけないだろう?」
「そんなことしたら、い、痛いよ…?」
顔限定なのだろうか。そういうツッコミをとりあえず端に置いておいて、リーマスを覗き込む。成長した彼はもちろん背が高かったが、今の彼は私の顔より顔半分くらい高いだけだ。すごい困った顔している。夢ならば覚めるな…!
「キミってそういう趣味だったのかい?」
「う、うーん…。痛いのは…嫌かな?」
基本的にMだけれど、スパンキングとかは遠慮したいかな…
「だったら、どうして?」
肩に手を置かれて、少し距離を置かれる。髭のないリーマスもっと見たかった…。
優しく微笑まれているがこれは拒絶していることがわかる。
知り合って少ししかたってない人に言われてもそうなるか…。
触れている肩が暖かくて、でもこれじゃあ確証には至らない。で、では…自分で…!
意を決して自分の頬へ向けて振りかざした手をそっと握られて、瞑っていた目を開ければ近付くリーマスの顔。こ、これはもしかして…!!
期待して(っていうか恥ずかしくて)目を瞑れば頬に鈍い痛みが襲う。
「い…ったぁあああい!!」
「あはは、これで痛いの?」
期待!期待した私が馬鹿だった!!
リーマスが頬を強く抓ったのだ。しかも結構強めに。
「いたい、いたいよ!もういいよ?!」
「え?なんて?急に聞こえなくなっちゃった」
ドS!知らなかった!リーマスってドSなんだ!
あ、でもシリウスとかを嬉々としてからかってたわ…
「ごめん、ごめんなさっ、いたい!」
「あーあ、リーマスのスイッチ押しちまったみてぇだな」
「馬鹿だねえ」
見てるやつら助けてよ!心の中で叫べば、開放された痛み。赤くなってるだろう頬を押さえてリーマスを涙目に見れば、すごくいい笑顔を浮かべていた。眩しいけど容赦ないよ…。
「ごめんね?けど君が痛くしてくれっていうから」
「そんなことは断じて言ってませんが」
「殴るよりはマシだろう?」
納得してしまう。
申し訳なさそうに眉を下げるリーマスに胸がときめくのはやはり惚れた弱みというやつなのだろうか…。
「それで、なにがしたかったんだい?」
作業に戻っていたジェームズが言う。そう、無意味なわけじゃない。それじゃあただのドMだ。ドMだけれど。
夢じゃないんだ。これは。
タイムスリップしてる。おそらく、あの薬のせいで。
あれ、私の薬すごすぎ?じゃああの部屋のせい?わからない。わからないけれど、私に出来るのは分霊箱の在り処を記すこと。ずるいかもしれないけど、あとは父さんたちを、今ここにいる人を信じるしかない。私はいつ帰ることになるのかわからない。
っていうか、今更だけど、顔おもいっきり見られてるけど、これって大丈夫なんだろうか…。
タイムターナーでも見られてはいけないってルールあるし…。
「ゆり?そんなに痛かった?」
「…!」
うおおお、リーマスの顔が!近い!うわあああ嬉しすぎて死んでしまいそう!
昔に私が小さいからといってリーマスにべたべたしてたことがあるけど!これは!これは!
「リーマス…離してあげたほうが…」
「え?なんでだい?」
ピーターの言葉に惚けて返すリーマスの顔はいい笑顔。
うわああこの赤い顔を隠したいいいい!
絶対気付いてるよ!うわああっ
「リーマス!」
「ん?」
「わたし、絶対に完成させるから!」
にやにやしていた他3人も訳がわからず?マークを浮かべている。でもこれだけは伝えたい。この恋は叶わなくても。
完成させるというのは完全な脱狼薬のことだ。今はまだ製作中だけど、あと一歩のところまで完成に迫っていた。理性を保つだけではなく、狼に変化させないような。
リーマスの手を握って瞳を見つめる。綺麗な鷲色。
「待っててね…!」
それだけ言い残して私は部屋を出た。呼ぶ声も聞こえるが、それどころではなかった。
もうすでに辺りは暗くなりはじめていて、その中を走った。時間はすでに夕食の時間。空いている教室へ入れば誰もおらず、羊皮紙と羽根ペンとインクを拝借する。誰か戻ってきてもおかしくはないから、他の空き教室らしい埃っぽい部屋に入って、地図を描く。辿れるように、時期が合うように。忘れかけていたあの物語を必死に思い出して。
「できた…!」
完成したそれを何度も読み返して、辻褄が会うかどうか確かめる。宝探しのようなそれは分霊箱の在り処と破壊方法を示している。今のところ作られているものと先に作られるものまで。ハリーやナギニのことは描いてないが、含みとしては描いている。
これで、今の私の未来に繋がるのだとしたら。
そう思えば手にある軽いはずのこの紙が重いように感じられた。
それでも変わるのだとしたら。この時代にくることが必然なのだとしたら。
紙におまじないをかけて、私は合言葉をかけるあの部屋に向かった。
夜のホグワーツは雰囲気がある。もちろん怖い意味で。けど、私はそれが好きだったりする。何か出てきそうな廊下を月が照らす中、絵画を目指す。
もちろん監督生や管理人も見回っているが、それは時間帯がある。常連者の私は知っている。朝に近い夜は案外見つからない。
特に問題も起こらず、絵画に辿り着く。眠っているところを起こしたのに、彼女は微笑むだけだった。ここまで衝動的に走ってきたが、これ…どうやって渡そう…。
第一この地図にしたって見つけてくれるかわかんないし、第三者にしてみれば何の意味ももたいない紙屑だ。
この先の部屋に置いたとしても、見つけてくれたとしても関心なく放置されるのが落ちじゃあないだろうか…。
直接渡すにしても未来に帰ったときにその話をすれば…私を娘として見てくれないかも知れない…。すでにリドルの話をしてしまったけれども……。だったら私から渡しても…。
「その紙を、彼らに渡すのですか?」
「ふぁ?!」
喋らないことで有名な彼女が口を開いて、驚いて彼女の透き通った青い瞳を見る。優しい頬笑み。我に返って頷く。
「そ、そうですっ。でもどうやって渡したらいいのか、わかんなくて…」
「それを、私に」
絵なのに渡したりできるのだろうか?
不思議に思って彼女を見れば穏やかな笑みを返された。
「入って右の本棚の、上から三段目の、右から四番目の本に挟んで。貴女を探しているようでしたら、彼らに伝えましょう」
「…!!ありがとう…!」
「ふふふ。私の部屋には、未来や過去からさまざま人が出入りすことがあるのよ」
遠くを見つめる彼女は過去に思いを馳せているのか、ブルーの瞳が月に照らされてとても綺麗だった。
「カミサマのイタズラかしらね。時に歴史に関わるような人物だったり、聞いたこともないような平凡な子だったり。不思議よね」
原作にない、この部屋を見つけたときに、すでに未来は変わっていたのかも知れない。
「貴女は…いろんな人を見てきたのね」
「ええ、たくさん」
千年にも及ぶ歴史のある城には、そういうことも起こりうるのだ。だってここは、魔法の世界。
かつん、響く革靴の音に心臓が跳ねる。見回りが来た。
声を潜めて、静かに口にした。
「本当にありがとう。合言葉は…クロノス」
静かに開く扉に急いで上がり、言われたとおりの本棚に挟む。
他人任せになるけど。もしかしたら彼らは私たちを産む前に殺されてしまうかもしれないけど。どうか、お願い。終わらせて。
朝が来るまで只管に祈る。
祈ったけど…私…どうやって帰ればいいんだろう…。
ソファに座ってぼんやりと考える。嗚呼、駄目、眠い。よくよく考えれば徹夜してたんだ。薬を作るために徹夜することなんてよくあることだけど…駄目だ。やることなくなってしまえば、眠気はさらに襲ってくる。
ソファに身を預ければ、もう意識は朦朧としていた。
どうか…彼を、救ってあげて…。
私は私の両親を殺したであろうリドルもなんだかんだで恨めないのだ。だって、彼もこの本の登場人物なんだから。
・・・・・・
「んん…」
「name!」
話し声にふらふらしていた意識が浮上して、目を開ける。視界には緑の瞳にくしゃくしゃの顔。この顔は見慣れた双子。
「は、りー?」
「やっと目が覚めたのね!」
「心配したんだぞ」
視線を移せばハーマイオニーの潤んだ瞳と、ロンの燃えるような赤い髪が目に入る。
帰ってきたんだ。
「んんんー…?私…なんで…」
どうやら医務室らしく、ベッドの布団から重い体をどうにか起す。なんだかすっごく寝た感じがする。
「倒れてたんだよ!絵の前で!」
「たおれてた…」
寝る前を思い出して一気に目が覚める。どうなったんだろう。どう、変わったんだろう。起きれてるって事は父さんと母さんは私が生まれるまでは生きている。原作に戻ったりとか、してないだろうか。
「name!」
重なる2人の私を呼ぶ声に視線を向ければ、父さんと母さんが血相を変えて医務室の扉を開いていた。駆け寄る2人に抱きしめられる。正確には私を抱きしめるリリーごと抱きしめたジェームズ。苦しいけれど、温もりに幸せを感じた。
「一週間も眠って!心配したんだから!」
「ご、ごめんさない…」
一週間も眠ってたのか…。そりゃあ体重いわけだ…。
体を離して母さんが頬を撫でる。ハリーと似た緑の瞳が私を心配そうに覗き込む。愛情が暖かかった。生きてて、よかった。
母さんの頬にちゅーをして、微笑んだ。
「私は大丈夫よ、ありがとう」
「name!僕には?!」
顔を寄せる父さんに同じようにキスを落として、微笑んだ。昨日(私からすれば)見たジェームズと違って、皺がよっていた。けれど、ハシバミは一緒だった。
額にキスを受けて、心配してくれた2人に申し訳なさとか感謝とかで胸がいっぱいになる。
「大好きよ」
そういえば2人は幸せそうに笑うのだった。
ハリーやハーマイオニー、ロンに感謝の印として頬にキスを送れば、しぶしぶながらも許してくれた。やっぱり私は彼らが大好きだ。
20151010
長。
落ちはだれにするか…
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