東に向かう旅の中でレベル2のアクマと対峙した。よくあることなのだが今回は数が多い。
遠距離型の私は後方から援護して、戦闘に参加する。アレンとラビ、リナリーが前線で戦って、ブックマンも針で応戦している。私も負けじと弓を引いて狙いを定めた時、横から叫び声が聞こえた。攻撃を中止してそちらを振り向けばアレンがドアップでそこにいた。…というか投げ飛ばされていた。
「?!なに、」
「わぁあああ!」
「うわあああ!」
なにやってんのぉおおすいませんんん
空中に木霊した。
突然すぎて為す術もなく同じように投げ出され、宙に浮く。浮遊感に襲われて、地面に落ちると思い、衝撃に目を瞑るが一向にやってこないそれに恐る恐る目を開けた。目の前にはアレンがいて、その背景には白い壁があった。下にも後ろにもあるそれに閉じ込められたのだと理解する。狭いために私の足の間にいるアレンも状況を把握したのか、申し訳なさそうに目を合わせた。
「なにしてんのぉおお!」
「ごめんって!アクマに飛ばされちゃって…」
「どいてこのバカ!」
「バカってなんですか!ちょ、暴れないで!狭いんだから!」
「あんたが10歳になれば問題ないわ!」
「なるわけないでしょ!このペド!」
「うっさいわ!…なんか狭くなってない?」
「…気のせい、じゃあなさそう…」
言い争う間に空間は段々狭くなっていく。傍から見れば押し倒されているように見える態勢だが、徐々に狭まる空間に体を折り曲げ密着しなければならない。さっきまで激しく動いていたためかアレンの荒い息が耳元で繰り返されるし、密着する体に焦りが生まれる。
「ちょ、これ、だんだん…!」
「このままいけば…」
ぺちゃんと潰れる箱をお互いイメージして、狭い中顔を見合わせた。さあと顔が青くなる。
「いやああ!潰されるとか!いや!」
「ラビ!リナリー!ブックマン!」
アレンのイノセンスを発動しようにも言い争っている間に狭くなった空間では自殺行為だ。私の武器は今は小さくしているが、放つには弦を引かなければならない。
「ばかあれんんん」
「ごめんていってるでしょバカname!」
「耳元で騒がないで!うるさい!」
「出させているのはどっち、…って、うわあああ!」
「へっ?、ぎゃああああ!」
急に消えた四方の壁。重力に逆らっていたその箱は、なくなったことで体はそれに従った。訳がわからず目の前の体にしがみついて落下の衝撃に目を瞑る。私からでは一面の空しか見えなくて、高さがどれだけあるかなんてわからない。
下にいた態勢から反転して、お腹に衝撃が走った。さっき食べたものがでそうと起き上がって口に手を押さえる。下敷きになってくれていたアレンが呻きながらも体を起こした。その様子を見たリナリーが真っ先に駆け寄る。
「大丈夫!?二人とも!」
「いたた…大丈夫です。ありがとう、リナリー」
「…」
頭を抑えて苦笑いを浮かべるアレンにリナリーは安堵したようにほっと息を吐き出した。すべて倒し終えたらしく、ブックマンとラビも傍に駆け寄る。なおも四つん這いのまま動かないnameにアレンは手を差し出すが、打ち所が悪かったらしいnameは気持ち悪いと口を抑えたままで、一同は顔を青ざめさせた。
- - - - -
なんてこともあったなぁと思い出しながらゆっくりと流れる大海原を眺めた。あれからアレンが離脱してミランダが加入した一向は東を目指して船に乗り込んだ。昨晩アレンの傍から離れたことを後悔しているリナリーにラビが激励するが、彼女は涙を流しただけだった。
傍で説教を受けているブックマン師弟を通り過ぎ、階段に座っているリナリーの前に膝をついた。伝う涙をそっと包む。
「ごめん、ごめんなさい…name…!」
「どうして謝るの?」
「だって、あなたは…っアレンくんの幼馴染じゃない…!」
幼馴染。一般的には親が知り合いの状態をさすが、この場合はそうではない。同じ師の元にいただけだ。だから私はここにいる。
笑う私を見て更に泣き出した彼女の頭をそっと撫でた。綺麗な髪だなぁと思いながらも慰めるように撫で続ける。
「nameは、悲しくなの…っ?」
「うん。全然」
「!」
弾かれたように顔を上げたリナリーは黒い瞳で私を射抜く。同じアジアでも少し違う中国人系美人は非難するような目をしている。
「もやしだけど、やるときはやるやつなの。だから大丈夫」
「…けどっ!」
「大丈夫だよ、絶対」
そう、アレンはアジア支部で生きてる。私は知っている。
確信があると言うように笑えば、リナリーの溢れ出た涙を他の人から隠すように抱きしめた。
大丈夫、大丈夫。自身にも言い聞かせるように繰り返した。
時間が経つにつれ、昼には小さな不安だったそれが大きくなる。きっとこの大きな暗闇のせいだ、と煌々と輝く月を睨んだ。
両手で口を押さえて吐き出しそうになる不安を腹に溜める。溜めて溜めて、胸の中に仕舞い込む。これから大きな戦いが起こるというのに、どうにも眠たい夜だった。
- - - - -
協力してくれていたアニタさんたちと別れを告げて江戸に向かった。
どうにも涙は枯れてしまったらしい私の瞳は乾いたままだった。素直に吐き出せるリナリーが羨ましく思う。なんて僻みもいいところだ。醜さを否定して、リナリーの首に片腕を回すノアに弓を構える。今は戦いに集中しなければ。
「…ヘンタイ……」
「おいおい、酷い言いようだな」
心底汚らわしい者を見るような目で見ることを忘れない。顔芸は得意だ。
ここから放ったとしても矢がリナリーに当たる可能性がある。視界の端が動いたことに気付いて、口角を上げた。
「女は無理せず綺麗に死ねよ…」
「アレンは綺麗に殺せた?ティッキー?」
「それ仲間に言う言葉かよ…、っ?!」
そうぽつりと零せば僅かに顔を歪めた。けれど背後からのチャオジーのパンチに気を取られたティキに距離を詰めて、弓を一閃した。パンチはすり抜けているためにダメージはないが、気を引いてくれただけでも助かった。ティーズ、呟いた声と共に現れた蝶に受け止められるが、それでは止められずにリナリーを手放した。崩れ落ちる彼女に構えず、更に弓を引いて退かせる。
「接近戦は、嫌いなのよ、ね!」
「少年のあとを追わせてやるよ!」
「!」
弓で攻撃を受け止めて、踏ん張る。力負けしそうだがイノセンスが力を与えてくれた。
「殺し損ねたくせに。だっさ」
「かわいくねぇお嬢さんだな」
出来る限りの下衆顔で嘲笑えば片眉を吊り上げるティキ。ダメージは与えられずとも、イラつきは与えられたらしい。タイミングよく現れた神田に任せて、援護するが決定的ダメージは与えらないまま、千年伯爵が辺り一面を更地に変えた。
結晶化するリナリーを殺そうと一斉に注意が向く中、白い道化が現れた。ああ、あれは…。
何故か退いた千年伯爵。疲労が激しかったため橋の下で休息を取った。情報交換をしてやがてリナリーが目覚める。
目の前にいたアレンに涙するリナリーはアレンの頬に触れる。スーマンのことに思い、涙を浮かべる彼らはなんてお人よしなんだろう。私は心すら動かないというのに。古いページの中にある記憶を思い浮かべてもやっぱり涙は浮かばないが、自分とは違う彼らに大きな分厚い壁を感じたことには心が痛んだ。やはり私は自分勝手で、醜い。
「泣いちゃったさー」
「ラビだって泣いてたじゃん」
茶化すラビにぷすぷす笑えば、慌てる彼を周りは笑う。アレンと目が合う。何か言おうとしたが、言葉が思い浮かばなかった。
「nameだって、夜一人で心配してたさ!」
「なっ…!し、心配してないし!」
夜一人で甲板にいたことを見られていたのか!突然のことに熱くなる顔を隠せなかった。
「nameだって心配してたんじゃない」
「ば、してない、し…!」
「ははは!素直になればいいさー」
リナリーが呆れたように笑う。やり返したというように笑うラビに悔しさが込上げた。何を言っても効果ないじゃないか。とりあえずその細腰を殴る。痛みに喚くラビをほっといて、顔を背ければ、目の前にいたアレンに頭を撫でられた。久々の感覚に心臓が掴まれたような、鳩尾辺りが締め付けられるような感覚がした。
「ほんと天邪鬼」
「…ふん。…………………おかえり」
長い沈黙の中で聞こえないように小さく呟いたそれに、笑われた。素直じゃない私にはこれが精一杯だ。顔を背ける私の先にリナリーがいて、彼女は綺麗に笑って、落ちた。反射的に腕を掴んだ私も穴に落ちて、道連れ方式にあいた穴に雪崩れ込む。
「どわぁああああ!!」
「ぐえ!」
「ぎゃあ!」
「つ、潰れるぅうううううっっっ!!」
下に敷いてしまったリナリーに体重をかけないようにするが、アレンが抑えてくれてるとはいえ重い。ううおっぱい同士が当たって少し痛みを感じる。自慢じゃないが大きいからね!(えへん!)
更にその下にいたレロがぺちゃんこになって浮き上がった。レロから出てきた千年公もどきは出口はないと告げる。それと同時に崩壊も始まった。それでも出口を探すが見つからない。
「ここにもない…!」
「何十軒壊してんさ!」
「……あそこ、あの塔をとりあえず目指そう!」
ひたすらに壊しまくるよか、早めに塔を目指したほうがいいと判断する。おぼろげな記憶の中でも確か塔を目指す流れだったし。
「なんであの塔なんですか?!」
「なんでも…っ」
「正解だよ、それ。さすが異世界の人間」
頬に当たる温かいなにかに言葉を遮られる。声のするほうを見上げたそこには分厚い眼鏡をかけた人間がいた。
「「「ビン底!」」」
「え、そんな名前?」
距離を取ろうと胸を押すが、肩に腕が回って固定された。睨みあげるが飄々と笑うだけ。やがてノアの姿に変わっても放す事はなかった。
「…nameを離してください」
「おお、こわっ」
私も逃げようとするが、腕は離れることはない。アレンの剣幕に、少し役得と思った自分がいて申し訳ないなと思った。けど私が性的に興奮するのは少年少女なのである。
「あん時の続きをしようぜ、少年。こっちは扉を、お前らは命を」
「…!」
「まぁ、選択の余地あんまねぇと思うけど」
話すティキを他所に崩れ落ちる頭上にあった塔。それが別つようにみんなと離れてしまった。結局手にしていた矢を使うことはできないままだったなぁ。
「name!」
「私は大丈夫!」
きっと激しく抵抗すれば逃れることはできた。そんなに力は込められていなかったのだから。
「話しよーぜ、お嬢さん」
「エスコート、ちゃんとできるの?」
今は殺されることはないと確信している。抵抗する気がないと伝わったのか、肩から手に変わったそれを握った。
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「この子が噂に聞くロードちゃん…!」
かわいいの一言である。教会側にいて触れ合えるとは思わなかった。かわいい。
「あれぇ?ティッキー連れてきたのぉ?」
「ああ。おもしろそう…」
「かあわいいいいい!!」
ティキの言葉を遮ってロードを抱きしめる。小さいふにふにしていい香りしてるかわいいいい!
「ちょ、オレと態度全然違うくねぇ?」
「ボクかわいい?」
「かわいい!」
ボクっこ最高である。
これからいろいろ過去のことを話すつもりだったんですが力尽きました、まる。
20160804
天邪鬼と腹黒っておいしいですよね
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