僕が酷いことを言ったのに彼女は何もなかったかのように話すし、笑顔を見せる。
確かにあの時は傷ついた表情をしていた。
なのに今は、まるでそんなことなかったみたいにして……いや、していない。
割り切ったのか開き直ったのか。
たまに目が合うと彼女は──極東綺羅は、挑発するかように目を弓形に細めて笑う。

「すいません、アイスティーひとつ」

「またですか?」

「レポートが終わらないので」

「あ!じゃあいいもの用意しますね!!」

梓さんに注文をし、極東さんはパソコンに向かい、真剣な表情でキーボードを打ち込んでいく。
東都大学の女子大生。
経済学部で、成績も優秀、特待生として学費も免除されており、絵に描いたような……とまではいかないだろうが優等生。
親戚にはあの鈴木財閥がいる。
なのになぜ、組織と関わっているのだろうか。
顔見知りなのはジンとウォッカと僕の3人、ベルモットは彼女の存在に気づいていない様子。
だが先日キャンティと遭遇し、コルンに狙撃されるも間一髪避け、見事にキャンティを撒いて逃走したらしい。
……よく逃げ切れたと、感心すら覚える。

「締切近いんですか?」

「あー……今週末?なので早々に仕上げてしまいたくて」

声をかけると鞄から手帳を取り出して開き、整えたらしい短めの爪で週間予定を辿る。
手帳の中身は至って普通。
むしろこの年の女性にしては書かなさすぎなのか……?

「私には必要なんですよ、こうやってレポートやるために喫茶店でゆっくりお茶するって。極々普通の大学生みたいでしょう?」

「ええ、大学生らしいと思いますよ」

「それならよかった」

「……てっきり僕の心無い言葉に傷ついているものかと思っていましたけど」

少し棘を含めて言うと、極東さんは顔を上げて僕を見た。
表情が変わる──にっこりと、年相応の笑みに。
あの時の傷ついたような、悲しげな、そんな表情なんかじゃない。

「考え直したんですよ?──ごっこ≠ェ好きで何か悪いことでも?私は幸せごっこも平和ごっこも超大好きだから」

「……!」

「人間、幸せに平和な世界で生きたいと思うのが大半でしょうよ」

誰だ、彼女は。
あの時とは何かが違う、違うけれど何が違うのかわからない。
いや、別人のように見えただけだ。
彼女は極東綺羅のままだから。

「あなたは、本当に極東綺羅≠ナすか?」

思わず自然と口から出た馬鹿馬鹿しい問いに、当たり前、と極東さんは歯を見せて笑って答えた。


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