うちほど複雑な家庭環境の家は少ないんじゃないだろうか、少ないと思いたい。
父は消息不明、母は小さい、上の兄はFBI、下の兄は養子入り、妹は僕っ子。
私?私は極々フッツーの女子大生。
──上の兄と同じ赤井姓を名乗ってるけどそこまで特別仲がいいわけではない。むしろ苦手だ
……と、私≠フ鍵付きの日記に書かれていた内容だ。
見舞いに来てくれた真純が持ってきた荷物の中に入っていた。
なんでも「綺羅姉、毎晩書いていたでしょ?持ってきた!」とのことらしい。
ちなみに事故って入院なうです。
原付で雨の中走ってる時にマンホールの蓋にタイヤを取られて転倒した、単独事故だっただけマシか、痛かった。
打ちどころが悪かったのか、3日ほど目を覚まさなかったらしい。
そして、目を覚ました時には私≠ナはなく私が飛ばされてきた直後だった。
待って前の世界でスポーツの全国大会で決勝直前だったんだけどおおおおお。
なんでいつも飛ばされて来る時は前後も絶妙なタイミングなんだ、私は悲しい……
「……で、なんで兄さんはいるの?」
「見舞いにな」
えー、そんな10年近く会ってない上の兄貴が来たらなんか気まずいわー。
備え付けの簡易な椅子に座る秀一兄さんを見てこっそり溜め息を吐いた。
10年前の海水浴以来だもんなー、ホテルで少し顔合わせたくらいだったけど。
大学の友人が持ってきてくれた課題をパソコンで片しているところを兄さんはじっと見てくる。
もう一度言う、気まずい。
「……変わったことはないか?」
「え、兄さんが見舞いに来たこと?」
「……」
意地悪する気はなかったけど思わず即答してしまった。
あーごめんってー、なんかそんな傷ついた顔しないでよー、事実なんだし。
言わないけどな。
しゅんとした様子の兄さんに笑いそうになったけどぷるぷるする表情筋を押さえ込んでお口チャックする。
私≠ノもこれ見せたいわー!!
そんな私の様子に気づいていたのだろう、兄さんはわざとらしく咳払いをすると緑の目を細めて私を睨んだ。
「だって私は大分兄さんに会ってないしね?そもそもアメリカ国籍取ったのになんで日本にいるのか……仕事?」
「言うわけないだろう」
「でしょうね」
「……お前変わったな」
「兄さんもね」
そりゃ小さい頃から自分の知識量にびびってたから赤井綺羅≠ヘ臆病でしたとも。
極東綺羅は臆病ではないからね、慎重と言ってくれると嬉しいわ。
難しい顔をした兄さんに笑うと、兄さんも表情を緩めた。
「顔を見れてよかった。大人になったな」
「大人ですから。年齢は」
立ち上がるのを見るに、そろそろ帰るのだろう。
ベッドに腰掛けたまま冷蔵庫の扉を開き、缶コーヒーを差し出す。
私は紅茶派なので。
きょとんとした兄さんはそれを受け取ると薄く笑った。
「お大事にな」
「秀一兄さんも。危ないことは控えなよ」
病室のドアを開けて出ていく兄さんの背中に手を振る。
まあFBIですもんねー、危ないことしかないですよねー。
私が退院してしばらく経ってから、母さんと真純がホテル暮しを始めたこと、秀吉兄さんが7冠達成しそうなこと、そして秀一兄さんが殉職したことを知った。
……ごめん秀一兄さん死んだ気しないわあの人ただじゃ死なないもん生きてそうだわ。
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