タン、なんて軽い衝撃に感じた。
次いで耳に聞こえる銃声と、激痛の走る胸と、鉄の味が広がる口と、意思に反して傾いていく体。
撃たれた、と冷静に思った。
同時にこれは致命傷で助からないなとも、微妙に外れてるから死ぬまでに少し時間があるなとも。
マジか、今回はここで終わりか。
「極東!!」
月島軍曹の声。
体が倒れていき、動く視界が捉えたのは、かつての戦友がこちらに銃を向けている姿。
……俺、お前にとっては戦友じゃなかったのかな。
残念だなあ……ほんと、残念。
他の同僚たちがそいつを追いかけていく。
あいつ、目ェかっ開いていたけど、そんな顔するなら最初から撃つなよって思う、子どもじゃあるまいし。
倒れた体は月島軍曹が支え、俺に声をかけ続けてくれていた。
月島軍曹もさ、一兵士なんか放っておいて追っかければいいのに。
俺そんなにアンタの心に滑り込んでいたかな?
滑り込んでいたのなら、それはきっと喜ぶことなのだろう。
息をしようと冷たい空気を吸い込んでも、上手く吸い込めなくて口の中に溜まった血液と共に吐き出してしまった。
こうやって、明確な殺意の下殺されるのはいつ以来だろう、忘れた。
寒い、なあ。
雪の冷たさと空気の冷たさと、それと奪われていく体温。
ここで終わりか、呆気なかった。
死ぬことに慣れてるせいで、人事のように感じてしまう俺はおかしいのだろうか。
「極東、お前帰るんだろう……?どこかは知らんが帰りたいんだろう?」
「……ぐんそ、う」
どこにかえりたかったんだっけ?
故郷、俺の……いや、俺≠フ故郷。
帰りたくてかえりたくて、すぐにはかえれなくて。
この世界でも、俺は──私は死ぬのか。
また極東綺羅≠ニいう存在がひとつ、消える。
けれどきっと次に目を覚ましたら始まるのだろう。
ここではない世界で、俺は私は始まるのだろう。
ああ、月島軍曹に、鶴見中尉に、鯉登少尉に、尾形のクソ野郎に、逢えないのは残念だなあ。
もうあえないのかあ……いやだなあ。
段々と瞼が重く、瞬きが億劫になる。
「極東上等兵」
「ちゅうい……」
静かな声で呼びかけられて無理矢理目を開く。
あー俺なんか見送らなくていいんだから、膝なんか折らないで。
俺はアンタに何もできなかったんだから、そんな珍しい顔しなくていいんだから。
ここにいる極東綺羅も、極東綺羅≠ニいう概念も、認めてくれたのすっげえ嬉しかった。
他の世界でも出逢えるかわからない、数少ない理解者。
「ご苦労だった。もう何も考えずゆっくり休むといい」
そう?
休んでいいの?
けれどこれだけは言わせてくれ。
「どうかあなたは、ご自身の道を」
「もちろんだとも」
見届けられなくてごめんなさい。
無意識に伸ばした手を掴んでくれたかどうかはわからない。
重い瞼に逆らうことはできず、視界は閉じる。
「おやすみ、極東綺羅」
最期に聞こえてきたのはその人からは考えられない優しい声で。
俺の意識は、この世界から消えた。
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