「虚様も大変ですね、あんな天導衆みたいなお偉方の一員なのに毎回毎回血液採られて」
「そういうお前は暇そうですね。朧と城へ行ったかと」
「やですよ。あんなクソジジイのために行くの、まあサボりです」
「サボりの割りには私に着いてきてくれますね」
「口実作りです。後で朧に怒られるし、虚様のお名前使えば少しはマシかなと思ってるので」
朧が何人か引き連れて城に行く時、私も呼ばれたけど居留守を決め込んだ。
だってねえ……嫌だもん、あんなやつのために働くの。
だったらお小言が多い虚様に着いてった方が少しはマシだ、ほんとに。
どこの世界でも、国のトップに腐っているやつはいる。
自分の過去の栄光に縋る者、自分の正統な血を権力を振り翳す者、国だけでなく世界すら欲する者。
身の程知らずが多いったらありゃしない。
……ああでも、国を導くのではなく共に歩もうとした人もいた、太陽みたいな人。
あの人、素敵だったなあ。
「私がいるのに何を考えている?」
特には何も、そう言おうと思ったけど虚様に強い力で顎を掴まれて言えなかった。
そんなに痛くはないけれど、言葉を遮るのには十分で。
とりあえずタップするけど、手の力は緩むことはなくむしろ強くなっていく。
「お前はいつもそう、私や朧ではない何かに想いを馳せる……妬けますね」
嘘つけ思ってないだろ。
でもすみませんが私の性分というか、たくさんを知っているからこそ比べてしまって郷愁に浸ってしまうというか、わざとじゃない。
そんなに頻繁に考えていただろうか、あまり自覚は無いんだよな。
ミシッと顎が鳴る音と一層強くなる痛みに焦り、虚様の手に爪を立てた。
やばいやばい、顎潰される……!
大分本気で爪を立てて、虚様の手を離そうと試みる。
けれどできるわけなくて。
どのくらいそうしていただろう、プツリと私の爪が虚様の皮膚を破った音がして、虚様は急に手の力を抜いた。
思わず両手で口元と顎を押さえ、少し虚様から距離を取って睨み上げる。
「ごめんなさい、つい」
「……虚様や朧と違って普通の人間の体なんでもっと丁寧に扱ってくれません?」
極々普通の体なんだから。
顎潰されるとか嫌だわ。
「そうですね、綺羅は普通の体でした」
「……ええ」
そんなどこか残念そうに言わなくても。
ああでもきっと彼は無意識だ。
ごめんなさいね、魂や精神が普通とはかけ離れていても、体だけはこの世界のものだから、ただの人間なわけなんですよ。
仕方がないことなんで、そんな顔しないでください。
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