「怖かったか」

「……うん」

「何が怖かった」

「……全部」

私に振り下ろされる刃、あまりにも多い悪意殺意、舞い散る鮮血、断末魔、動かぬ他人の体。
それら全部怖かった。
少し震える体を抑え込むように膝を抱え、顔を埋めて、ぎゅっと目を瞑る。
あんなの、知らなかった。
また胃の中のものがせり上がってくる感覚がする、なにもないのに。
怖かった、目の前に死≠ェあった。
帰りたい。
蹲ったままでいると高杉さんが距離を詰めたのか、刻み煙草の匂いが強くなった。

「怖い思いをしたくねェならもうちっと鍛えることだな」

「……」

「お前を放り出すわけにゃ行かねェ、が、かといって付きっきりになれるもんじゃねェ」

だから強くなれ、身体面も精神面も、せめて自分だけでも守れるように。
そろそろと顔を上げて高杉さんを見上げた。
見たことない、少し柔らかな表情。
何かを懐かしむような、そんな目を細めて私の頭に手を置く。
こうやって、少しとはいえ話すのは初めてかもしれない。

「落ちついたらさっさと寝ちまえ。また今日みてェに連れ出す時もあらァな」

「ん……」

落ちつくまではこのままで。
震えたまま布団に入ったって眠れない、夢に出てきそう。
なんで強くならなきゃなのか、わからないけれどひとつだけわかった。
もう、こんな怖い思いは懲り懲りだ。



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