……おかしいな。
ごしごしと目を擦って、それからもう一度部下に視線を向けた。
ふよふよと、部下の周りを飛んでいる黒のワンピースを着た少女が。
人って浮くんだったか……?
徹夜は今日で何日目だったかな……疲れてんのかな俺。
部下は──風見はそんな少女を鬱陶しいとでも言うように手で払ったり、あからさまに嫌な顔をしてる。
は?見えてるのかお前?
少女はケラケラと笑うと、風見に肩車をするような形で収まった。
ふらふらと裸足を揺らしても、風見は顔色ひとつ変えない。
本当になんなの?
それからというものの、風見に付き纏っている少女が気になって仕方ない。
常に風見の傍を浮いているか、たまに他の部下のところに移動したりしている。
そして、今度は俺の前に。

「……」

「……」

じいっと俺を真正面から見て、それからすぐ風見のところに戻った。
びっくりした……真ん丸の真っ黒な目が目の前にある衝撃。
風見のところに戻った少女は、風見に何か耳打ちするとくすくす笑って風見の後ろから首に腕を回す。
視線は俺に。
にんまりと悪戯っ子のように笑っている。
なんなんだろうか、彼女は。












「ゆうれい」

「正確には幽体離脱しているらしいです」

「ゆうたいりだつ」

「ただ、その体がどこの誰かわからなくて、本人も名前が思い出せないと」

「なんだその小説にありそうな設定は」

「しかし……見えてますよね?」

「見えてるな」

風見の首にしがみついて眠っているらしい少女。
他の部下には見えていない、風見は重さを感じていない、たまに壁をすり抜ける。
よかった疲れ過ぎて見えた幻覚じゃなくて。
いや幻覚じゃなくても見えちゃいけないものが見えてるけど。
しかし、幽体離脱ってことはどこかの病院で危篤状態なんじゃないのか?
詳しくは知らん、小説やらドラマやらでありそうな気がするだけだ。
少女の眠っている顔だけでもと、しっかりと覚え、時間がある時に探してやろうかと思う。

「お前、迷惑にはなってないのか?」

「ええ、悪いことをするわけではありませんし、懐かれて嫌な気はしませんし、何より見えてる以上放っておけません」

「だな……」

こちらから触れないのが残念だと思う。
仮眠室に向かう風見の背中と、その背中に張り付いている少女を見送ってから警察庁を後にした。


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